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毎日新聞2024/3/29 東京朝刊有料記事944文字
中絶の権利を明記する式典で演説するマクロン仏大統領=パリで8日、ロイター
なるほドリ フランスで人工妊娠中絶(じんこうにんしんちゅうぜつ)する権利(けんり)を憲法(けんぽう)で定めることになったと聞いたよ。
記者 フランスの上下両院は3月4日の合同会議で、中絶の選択(せんたく)を「自由」と明記する憲法改正案を賛成(さんせい)780票、反対72票で可決しました。8日の国際女性デーに正式に憲法に盛り込まれました。中絶する権利を憲法に明記するのは世界で初めてです。マクロン仏大統領は欧州連合(おうしゅうれんごう)(EU)の憲法に当たる基本権憲章(きほんけんけんしょう)にも明記することを目指すとしています。
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Q フランスでそもそも中絶は合法(ごうほう)なの?
A 合法です。もともとキリスト教の倫理観(りんりかん)が強い欧米諸国(おうべいしょこく)で中絶は禁止(きんし)されてきました。望まない妊娠をした女性は、不衛生(ふえいせい)な環境(かんきょう)で非合法な堕胎(だたい)により命を落とすことも多かったのです。こうした状況に疑問(ぎもん)を持った女性たちが中心となって声を上げ、フランスでは1975年に合法化されました。国民の大半が支持(しじ)しており、極右政党(きょくうせいとう)「国民連合」も党として憲法改正に異議(いぎ)を唱えることはしませんでした。
Q では、なぜわざわざ憲法に書くの?
A 米国の連邦最高裁(れんぽうさいこうさい)が2022年、それまで中絶を憲法上の権利だと認めた73年の判決を半世紀ぶりに覆(くつがえ)す判断(はんだん)を示し、米国では各州が独自の州法で中絶を禁止できるようになりました。フランスでは中絶の権利が後退(こうたい)してはならないとの問題意識から、権利を憲法で保障(ほしょう)する必要性について議論(ぎろん)が始まりました。
Q 日本はどうなっているの?
A 刑法に「堕胎罪(だたいざい)」がありますが、母体保護法(ぼたいほごほう)(旧優生(きゅうゆうせい)保護法)に基づき、原則(げんそく)として「配偶者(はいぐうしゃ)の同意」を得るなどの条件付きで医師は中絶手術をできるとされています。しかし性暴力による妊娠でも、医師が「加害者の同意」がなければ手術を拒(こば)むケースもあり、問題となっています。(ベルリン支局)