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毎日新聞 2023/4/3 09:00(最終更新 4/3 09:00) 有料記事 1562文字
※ プルトニウムのプルとサーマルニュートロン・リアクター(熱中性子炉)のサーマルを繋げた略語(plutonium thermal use)
高浜原発(左から3号機、4号機)の専用港に入港するMOX燃料を積んだ輸送船=福井県高浜町で2022年11月22日午前6時59分、望月亮一撮影
プルトニウムを原発で利用するプルサーマル発電で、フランス南東部の燃料加工工場「メロックス工場」で不良品が相次いでいる影響が国内で尾をひいている。2月に電力各社が公表した計画によると、2024年度はプルサーマルに使う新燃料を全く確保できなかった。25年度以降には利用計画があるものの、製造の具体的な開始時期が不透明なままだ。岸田政権は原発を活用する姿勢を強めているが、使用済み核燃料を再生利用する「核燃料サイクル」には厳しい現実が立ちはだかっている。
「均一に混ぜる」ハードル高く
プルサーマル発電は、核燃料の有効利用が目的とされる。具体的には、使用済み核燃料を再処理(化学処理)し、核物質のプルトニウムを分離する。これにウランを混ぜて、ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)を作り、原発で燃やす。MOX燃料加工施設は国内では稼働しておらず、製造はメロックス工場に委託している。
しかし、プルトニウムとウランを均一に混ぜるのは難しい。同工場では、プルトニウムの塊ができる不良品が続出した。不均質な燃料を燃やすと、部分的に高温になって燃料が壊れやすくなる危険性がある。同工場のMOX燃料集合体の21年生産量は15年の36%の106体にまで落ち込んだ。
関電以外は直近の利用計画なし
2024年度のプルトニウムの利用量が「0・0」トンと書かれた関西電力の資料=2023年2月17日発表
こうした状況が、23年2月公表の電力各社のプルトニウム利用計画に反映された。それによると、23年度0・7トン、24年度0トン、25年度1・4トンで、いずれも関西電力の利用分になっている。23年度分は、高浜原発3号機(福井県高浜町)で使う予定のもの。24年度は、1年前発表の計画では0・7トンだったが、なくなった格好だ。関電は「最新の運転計画やMOX燃料の製造状況を踏まえた」と説明し、24年度に充てる在庫がないとしている。
25年度分は、3年前の20年1月に製造契約をしていた分を見込むが、製造開始の時期はまだ決まっていない。関電は同工場での製造について「できるだけ早期に開始したい」としている。
現状で、関電以外にプルサーマルを実施しているのは九州電力と四国電力だが、いずれもMOX燃料の在庫がない。両電力とも、他社がフランスに有しているプルトニウムを名義交換で取得して同工場でMOX燃料を製造するという。利用開始時期は、九電は玄海原発3号機(佐賀県玄海町)で「早くて26年度から」としている。伊方原発3号機(愛媛県伊方町)で計画する四電は1年前に「早くても5~6年後(27~28年)」としていたのを「28年度以降」と説明している。
しかし、両者ともプルトニウムの調達先、同工場での製造開始時期とも決まっておらず、見通しは不透明だ。では、同工場での不良品多発問題はどうなっているのだろうか。
関西電力高浜原発。手前左から1号機、2号機、奥左から3号機、4号機=福井県高浜町で2022年12月12日、本社ヘリから北村隆夫撮影
フランスの放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)の報告書によると、不良品の原因は、プルトニウムとウランを混ぜる際、ウラン側(ウラン酸化物)の粉末があまりにも細かくなり、均質に混合するのが難しくなったためという。従来、ウラン粉末は「湿式」の製法で行われていたが、施設が老朽化して、新しく「乾式」の製法を採用したところ、粒子が細かくなる問題が生じた。
このため、メロックス工場を運営するオラノ社は、同工場とは別の場所に、新たに「湿式」によるウラン粉末の製造ラインを建設しているという。
国産化も見据えるが…
かつて日本がMOX燃料の製造を委託していた英国では、製造の難しさから検査データの捏造(ねつぞう)が発覚した末、工場が閉鎖された。フランスでは、MOX燃料工法が二転三転している。国内では青森県六ケ所村にMOX燃料加工工場(事業費約2・4兆円)を建設中だが、原子力の先輩格の英仏で難航する製造が簡単にいくとは考えにくい。【大島秀利】