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毎日新聞 2023/4/6 17:34(最終更新 4/6 18:18) 895文字
「さらさら」や「べたべた」などの手触りを評価する測定機。山形大などの研究グループが実用化した=山形大で2023年4月6日午後0時49分、神崎修一撮影
「さらさら」「べたべた」「しっとり」――。人が物に触れた時に感じるさまざまな触覚を数値化する測定機を、山形大などの研究グループが実用化した。人の経験や勘によるところも多い感覚を客観的な数値で表すことで、これまでは難しかった繊細な手触りを科学的に解析、評価することが可能になった。化粧品や自動車の内装など人の肌に触れる商品を開発する企業の研究現場などでの活用が期待される。
化粧品開発などに活用期待
山形大学術研究院の野々村美宗(よしむね)教授(化学・バイオ工学)、計測機器製造販売のトリニティーラボ(東京)、東京都立産業技術研究センター(都産技研)の3者が共同で開発し、6日、同大で記者会見して発表した。
手触りを評価する測定機を実用化した山形大の野々村美宗教授(右)とトリニティーラボの野村修平社長=山形大で2023年4月6日午前11時19分、神崎修一撮影
研究グループは2013年、開発に着手。硬さや指紋の深さなど人の指を模した「触覚接触子」と呼ばれる部位と、物に触れる際に摩擦で早くなったり遅くなったりする自然な動きを組み合わせた「バイオミメティック触覚センシングシステム」と呼ぶ独自システムを試作した。皮膚の表面で起きる現象を精緻に再現することで、摩擦力の変化などから「さらさら」「べたべた」などの手触りを数値化する仕組みだ。化粧用のパウダーファンデーションなどを使って実験を重ねた。
学会などで研究成果を発表したところ、さまざまな企業から「導入したい」と反響があった。都産技研の技術支援を受け、開発開始から約10年かけて測定機の実用化にこぎつけた。野々村教授らによると、人の触覚を数値で客観的に評価できる測定機は世界的に例がないという。
この測定機は1台400万~500万円で5月に発売予定。既に導入が決まっている企業もあり、多数の問い合わせも寄せられているという。野々村教授は「化粧品や自動車の開発現場では、『職人の勘』で商品が設計されてきた。言葉の壁で情報共有ができないなどの課題もあった。今後、新しい商品を設計する際には、データが指針になるかもしれない」と強調した。
トリニティーラボの野村修平社長は「舌触りやかみごこちといった人間の所作に関わる測定について、研究開発に力を入れたい」と今後に向けた意欲を語った。【神崎修一】