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毎日新聞2024/4/1 東京夕刊有料記事915文字
花が開いた標本木の桜。気象庁は東京の桜が開花したと発表した=東京都千代田区の靖国神社で024年3月29日午後2時半、手塚耕一郎撮影
寒の戻りで、足踏みをしていたサクラが、ようやく開花の時期を迎えた場所も多いことだろう。楽しみにしているのは人間だけではない。鳥のウソ(鷽)は、花芽が膨らむのを待って食べにくる。
スズメより少し大きく、ずんぐりとした姿に短いくちばしを持つ野鳥だ。成鳥は頭部や尾、羽が黒色。背や胴は青灰色。雄はほおの辺りに薄紅色が映えて美しい。
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以前、春先に岩手県の川沿いで、群れでやってきたウソが次々とサクラをついばむ様子に遭遇したことがある。あれよあれよという間に、木の下の残雪に、花芽の殻が、次々と散らばっていった。
度々、深刻な被害が報告される北日本の桜の名所などでは、ウソがとまりにくいように枝先を剪定(せんてい)したり、鳥よけの反射テープやカラスの模型を設置したりと対策に苦慮している。花芽を食べられたサクラは、花見の時期にさみしい格好になってしまうからだ。
「フィーフィー、フィーフィー」という鳴き声が、口笛の音に似ており、古語として使われていた「うそぶく」(口笛を吹く)に由来して、「ウソ」と呼ばれるようになったのだそうだ。だが、うそぶくには、「そらとぼける」「大きなことを言う」などの意味もあり、「嘘(うそ)」と混同されるようになったとも言われる。
福岡・太宰府天満宮などで続く「鷽かえ神事」は、伝統的な工芸品の「木うそ」を新しいものに取りかえることで、凶事を「嘘」にして、吉事を招き入れる行事と伝えられる。自民党派閥の政治資金パーティーの裏金事件を巡り、当事者である政治家たちは「知らぬ存ぜぬ」ばかりだが、こちらは不問に付すわけにはいかない。アニメーションや漫画でよく描かれる「口笛を吹いてごまかす」ようなことはやめ、きちんと説明をしてほしいものだ。
ひと頃、「エープリルフール」にあわせて企業や官公庁、そして新聞もユーモアや冗談を交えた発信をしていたが、SNSの偽情報に社会が惑わされる時代に、ふさわしくなくなったようにも思う。4月1日に、笑いや面白み、特別感を持って「バカをやる」余裕は失われつつあるのかもしれない。
この春、ウソの奏でる本物の「口笛」を聞く機会があるだろうか。桜並木で耳を澄ませてみようと思う。(専門記者)