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注目の抗老化物質「NMN」 効果や副作用は?米井嘉一・同志社大学教授
2023年4月12日
サプリメントの「NMN」(ニコチンアミドモノヌクレオチド)について、インターネットの記事やCMなどで見聞きしたことのある人は多いのではないでしょうか。最近は抗老化物質としても注目されています。私はこれまでも興味を持ったものは自ら調べ、服用して試すことを実践してきました。このNMNについても、二つの臨床試験の責任医師を務め、その結果を論文にまとめて公表してきました。NMNはいかなるもので、どんな働きがあるのか、期待できる効能や副作用についてお伝えします。
有害アルデヒドを代謝する酵素を補佐
NMNは、人が生きる上で重要な「補酵素NAD」の材料となる物質です。NMNを摂取することで、不足しがちなニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)を補給できるという利点があります。
補酵素とは何でしょうか。体の中ではさまざまな化学反応が起きています。酵素というたんぱく質が、これらの反応が効率よく進むよう助ける役割をします。補酵素は、この酵素の働きを助ける成分なのです。他にチアミンピロリン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、コエンザイムなどがあります。
例えば、お酒を飲んだ時には、エタノールがアセトアルデヒドに代謝され、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に変わります。ALDHが働くためにはNADが必須です。そして、お酒を飲めば飲むほど、NADが消費されてしまいます。
その他、高血糖(糖尿病や血糖スパイク)や高脂肪食といった糖化ストレスが強い状態でも、アルデヒドが過剰に作られ、NADの消費が進みます。
これまでもNADを増やすための成分が提案されてきました。代表的なものに、ニコチン酸(NA)、ニコチンアミド(NAM)、ニコチンアミドリボシド(NR)、トリプトファン(Trp)などがありますが、効率が良くありませんでした(NA、NAMの総称がナイアシン)。その点、NMNには専用の輸送体(Slc12a8)が細胞表面に準備されているため、消化管から吸収されやすく、血液中から細胞内へ移行しやすく、NADに変換されやすいという性質があります。NMNの効果は、NADになってからの作用の結果と言えるでしょう。
以上のことは、私が師匠と仰ぐ米ワシントン大学医学部の今井眞一郎博士の研究成果です。師の研究領域は「NAD World」と呼ばれ、「研究者の侍ジャパン」の一人として世界中で注目されています。今年の秋の学会にお招きしたのですが、日程が合わず実現できませんでした。
第17回日本抗加齢医学会(2017年6月)後の懇親会。前列右から2人目が今井眞一郎博士。後列左端が筆者=筆者提供NADの生命維持に欠かせない三つの働き
NADには三つの大きな働きがあります。それをみていきましょう。
①GAPDHの補佐
一つ目は、酵素の働きを助ける補酵素としての役割です。ヒトの体の中で、最も大量に存在し、重要な酵素はグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)です。細胞質内のたんぱく質の15~20%がGAPDHであり、グルコースを代謝してエネルギーとして使いやすくする過程「解糖系システム」や糖化ストレスによって生じたグリセルアルデヒドを安全な物質に変換する働きがあります。肝臓や腎臓の細胞には特に多く存在します。そのGAPDHを助けるのがNADです。
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かつて、強力な抗がん剤として期待されたコニンギン酸はGAPDHの働きを抑制する作用があります。すると、グリセルアルデヒドやメチルグリオキサール(MGO)などのアルデヒドが増えて、あっという間にがん細胞を死滅させます。ただ、作用が強すぎて正常細胞まで死んでしまうのが難点でした。NADが不足してGAPDHの働きが鈍ると、健康上の大問題が生じることが推測できるでしょう。
②ミトコンドリアのTCAサイクルの円滑化
二つ目は、極めて重要な生化学反応「クエン酸(TCA)回路」を円滑にする役割です。細胞内のミトコンドリアはエネルギーを産生します。好気性の生き物にとって特に重要なTCA回路では、糖や脂肪酸を材料にして化学エネルギー物質のアデノシン3リン酸(ATP)が生成されます。この回路では、図が示すように、3カ所でNADが必要です。もしもNADが不足すると、回路が円滑に回らなくなり、ATPというエネルギーの産生不足に陥ってしまいます。その結果、細胞の機能は低下します。
NMNを補ってNAD不足が解消されると、細胞は低下した機能を取り戻します。例えば、NAD不足によって機能が低下した免疫細胞であれば、免疫機能が回復することになります。NMNの効果に関する報告が、あれにも良い、これにも良いといった具合に多彩である理由は、人によって機能低下した細胞が異なるからだと思います。
③サーチュイン遺伝子の補佐
三つ目は、老化や寿命を制御する遺伝子を補佐する役割です。近年、老化制御、遺伝子の安定化、エネルギー制御に関わる遺伝子として「サーチュイン」が注目されています。サーチュイン遺伝子の働きを一語で表すと、DNAを収納する染色体を構成するヒストンたんぱく質の「脱アセチル化作用」となります。脱アセチル化とは、エピゲノム変化(遺伝子DNAの配列を変えずに情報が変化すること)の一種で、ヒストンたんぱく質のアセチル化や脱アセチル化が生じることによって情報が変化します。サーチュインはエピゲノム制御に重要な役割を果たし、異常が起こるとがんなどの病気や老化が引き起こされることが知られていますが、この脱アセチル化にはNADが必須物質なのです。
気になるNMNの効果と副作用は?
NADは加齢に伴い減っていきます。また、糖尿病、高脂肪食、飲酒過剰などNAD消費が多い人も減少します。NMNの効果は、NAD不足の人に表れやすくなります。
NMNの効果と副作用について、次のパイロット試験の成績を紹介します。閉経後の女性17人(平均年齢55歳)に対し、NMNを1回300mg経口投与したところ、血液検査で表のように糖尿病指標HbA1cの低下、善玉コレステロールHDLと、インスリンの働きを助けるアディポネクチンの増加を認めました。また、生活習慣病やストレス抵抗力と関係が深いホルモンDHEAの増加も認めました。自覚症状については「肌症状(乾燥肌、肌荒れ)が改善した」という回答が多くみられ、その他には「眠りが深くなった」「疲れにくくなった」「目の疲れが減った」などの回答がありました。一方、頭痛の副作用が表れた1人について服薬を中止しました。
NMNを点滴で投与する場合もありますが、データの集計はできていません。改善した自覚症状は経口投与の場合とおおむね同じですが、はっきりと実感することが多いようです。しかし、副作用の頻度は経口投与よりもやや多かったです。頭痛、発熱、倦怠(けんたい)感の症状もやや強く、点滴部位の血管痛も認められました。
副作用が起きた理由はよくわかりませんが、NADが十分に足りている人に投与しても、効果が期待できないどころか、NADが過剰になって障害が起きたのかもしれません。比較的安全なビタミン剤でも過剰になると副作用が表れます。ビタミンAやビタミンEは、不足気味の人には補充効果がありますが、これらのビタミンは脂溶性であるため、過剰に投与すると脂肪に蓄積して、悪さをしてしまうのです。
もしも今まで全く聞いたこともないようなサプリメントが突然現れたら、皆さんはどう思いますか。信用しますか。おそらく多くの人が疑惑を抱くでしょう。なぜなら基盤となるデータが少ないからです。
2020年3月の厚生労働省による食薬区分では、NMNは「医薬品」ではなく「食品」扱いとなりました。しかし、体に取り込まれる成分としての安全性の確認は絶対に必要です。
少人数の効能評価、安全性評価は第一歩。少し資金を集めて、体のどのあたりに効果が出るのかを確かめ、評価指標を決めるための無対照パイロット試験が第2段階。評価指標を絞っての二重盲検試験が第3段階になるでしょう。そして、これらのデータはきちんと公表されるべきです。
私は現在、実験台の一人としてNMNを内服しています。現段階で、もしもNMNを試してみたいのであれば、医師の管理の下で、自ら実験台になる覚悟を持つ必要があると思います。
特記のない写真はゲッティ
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よねい・よしかず 1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。