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毎日新聞2024/4/6 東京朝刊847文字
国会の裁判官弾劾裁判所へ向かう仙台高裁の岡口基一判事(右)=東京都千代田区で2024年4月3日、玉城達郎撮影
「表現の自由」を巡って、裁判官の身分保障が問われた。重い判断である。
仙台高裁の岡口基一判事を罷免する判決が言い渡された。国会議員で構成される裁判官弾劾裁判所の結論だ。不服申し立てはできない。法曹資格を失うため、弁護士にもなれない。退職金も支払われない。
問題視されたのは、ネット交流サービス(SNS)への投稿である。戦後の制度創設以来、罷免された裁判官は8人目だが、表現行為が理由となるのは初めてだ。
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岡口氏は東京高裁判事だった際、担当していない女子高校生殺害事件に関し、遺族の心情を傷つけるような書き込みをした。
抗議した遺族について「俺を非難するようにと、東京高裁事務局に洗脳された」と投稿した。
裁判官弾劾裁判所の法廷=東京都千代田区で2024年4月3日、玉城達郎撮影
判決は、本人に積極的な意図があったわけではないが、結果として執拗(しつよう)に遺族を傷つけることになったと指摘した。
人権を守る裁判官の役割から懸け離れた行為であり、「国民の信託に背いた」と認定した。
表現の自由として許容される限度を超えていると言わざるを得ない。品位を欠く言動をすれば、司法への国民の信頼が損なわれる。
裁判官は行政や立法の問題点を是正する役割を担う。憲法が「裁判官の独立」を定めているのは、外部から圧力を受けず、公正な判断ができるようにするためだ。
それを担保する目的で、身分が手厚く保障されている。病気で職務がこなせない場合などを除き、弾劾裁判を経なければ辞めさせることはできない。
過去に罷免されたのは、児童買春やストーカー、盗撮で刑事責任を問われたり、職務怠慢があったりした場合などだ。
弁護側は「罷免は重すぎる」と主張した。訴追に反対する弁護士や学者からは「裁判官の独立を脅かす」との声が上がっていた。
裁判官が発信を萎縮するようなことがあってはならない。
法治国家において判例や法律を解説することは、社会にとって有益だ。裁判の進め方や判決の考え方を伝えれば、国民に身近で開かれた司法の実現にもつながる。
今回のケースを、司法の発信について考える契機にしたい。