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毎日新聞2024/4/6 東京朝刊有料記事626文字
ひのまどかさん
ひのまどかさん(82)
聴覚を失ったベートーベン、貧民街に生まれたブラームス、二つの世界大戦の時代を生きたシベリウス。半世紀にわたって、歴史に残る音楽家の足跡をたどっている。
東京都出身。音楽と向き合ったのは6歳のときだ。「音感の悪さ」を心配した母の勧めでバイオリンを始めた。それでも練習を重ねると、演奏曲が増えていくのが楽しく、ソリストを夢見て東京芸大に進学した。
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卒業後はプロの室内楽団員として活動しつつ、「趣味は勉強」とあって、民族音楽の泰斗で母校の教授だった小泉文夫の講義に潜りこんだ。「自分の足で世界各地を歩き、その体験に基づく解説が刺激的だった。どの音楽も人類の財産」と知った。
その頃、コンサート用に書いていた曲目解説が好評で、30歳を過ぎ、現場主義を貫く音楽作家として生きると決意。現地語を学び、音楽家の遺族らを訪ね、伝記からオペラをテーマにした小説まで20冊以上を出版した。また、子ども向け本の監修やラジオ番組の制作協力にも取り組んでいる。
3月末で完結したシリーズ「音楽家の伝記 はじめに読む1冊」では、登場する曲を試聴できるQRコードや年表など資料を充実させた。「音楽は社会を映す鏡であり、苦難は高い芸術性の源泉。曲誕生の背景に、どんな世相や葛藤があったのかを知ってほしい」と語る。
戦中に生まれ、近年も世界で紛争が続くことに心が痛む。「災禍に向き合ってきた音楽家の人生を伝え続けることが、私の役割です」<文・写真 田中泰義>