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もうすぐゴールデンウイーク(GW)です。これを過ぎると、会社などで健康診断(健診)を受ける人が多くなるのではないでしょうか。日ごろの不摂生から検査を心配されている人もいるのでは。しかし、命にかかわる病気が見つかるケースもあります。今回は、意外とあなどれない検査値の見方についてお伝えします。
腎機能を守るには塩分制限が重要
「健診のことが書かれた学会のポスターを見て気になったんですが……。私、血液検査の結果でeGFRの値が50と出ていたので、腎臓が少し悪いんですよね。先生、何に気をつけたらいいですか?」
先日、私の病院に診察を受けに来た50代の男性患者さんからこんな質問を受けました。
健診で受ける血液検査では、体のいろんな機能を調べることができます。まずは腎臓の機能について振り返ってみたいと思います。
腎機能を調べる数値には主に、eGFR▽クレアチニン▽尿素窒素▽尿酸――の四つがあります。以下にまとめます。
・eGFR……推算糸球体ろ過量。老廃物を1分間にろ過できる力を表します。
・クレアチニン……筋肉を動かした時に出てくる老廃物の一つ。体にとって不要なので尿と一緒に体の外に出ていきます。腎臓のろ過する力が落ちると、この老廃物を体の外に出すことができず、血液中に残ってしまうため、数値が高くなります。
・尿素窒素……食べ物に含まれるたんぱく質の代謝によって生じる老廃物。体を構成するたんぱく質からもできます。腎臓のろ過機能が低下していると数値も高くなります。
・尿酸……「プリン体」という物質が体内で分解されてできる老廃物。プリン体は細胞に含まれる遺伝子の構成成分で、細胞の増殖や代謝などに利用されます。8割(=約500㎎)は体内で作られ、残りは食事で取ります。体内に過剰に蓄積されると高尿酸血症となり、悪化すると通風を引き起こします。
健診結果を理解し、健康を取り戻すためにはどうしたらいいのでしょうか。この患者さんを例に考えてみましょう。
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50代でeGFRの数値が50㎖/分/1.73㎡は低めです。腎臓の機能がさらに悪化し、10㎖/分/1.73㎡未満になると、いよいよ自分の腎臓ではろ過することはできなくなります。細胞が生きていくうえで生じたクレアチニン、尿素窒素、尿酸、そしてこれら以外の毒素を尿として体の外に排出できなくなり、透析など機械の力を借りたり、腹膜透析や腎臓移植などで排出したりする必要が出てきます。
水分の摂取が足りないと尿に出ていく水分量を節約して体に集めておこうとするため、尿の色は濃くなります。そのようなことが常に続くと、腎臓は傷み、eGFRの数値が低下します。例えば、健診を長年受けていなかったある女性が、友人の勧めで海外から取り寄せた漢方薬を服用し続けたところ、けだるさが取れず、病院を受診したのですが、すでにeGFRの値が15㎖/分/1.73㎡より低くなっていて、間もなく透析を始めることになりました。
心臓が悪いなど主治医の先生から水分制限の説明を受けていなければ、1日1200~1500ccは水分を取ることが必要です。食あたりで嘔吐(おうと)や下痢を繰り返して体の水分が必要以上に体外に出て行ってしまい、食べ物や水分の摂取がどうしてもできない時は、口からでなく点滴で水分を補充するしかありません。
検査結果の例=筆者提供
このように、男性の患者さんに一通り説明すると、横にいた妻も加わり、こんなやりとりを始めました。
妻「この人、漬物好きですね。でも、やめさせます」
夫「キムチも漬物ですか?」
私「キムチだけでなく、日本人の好きな梅干しもです。最初は物足りないと感じてしまいますが、慣れれば濃いものを食べていたことに気づきますよ」
腎機能が正常であれば余分な塩分は排出されますが、低下していて塩分を取り過ぎると、吸収されたナトリウムがたまり、高血圧の原因の一つとなります。
高血圧が続くと、腎臓の血管が障害され、さらに腎機能の低下を進めてしまうのです。厚生労働省は健康な人でも男性7g/日、女性6g/日以下にするように、としています。1食あたりの漬物の塩分量は2~3gで、麺類だと汁を飲まなくても麺をこねる際に塩は含まれているので注意が必要です。
HbA1cの重症度、発熱に例えてみよう
また、ある日、血液検査の血糖値をめぐって、別の患者さんらとこんなやりとりをしました。
妻「ヘモグロビン・エーワンシー(HbA1c)は12.3%と高いですが……。中学生の子どもがいるのに入院なんてできませんよ」
夫「僕も妻がいないとやっていけません。20代の子ども2人のほか、中学生の子もいるので、自分ではとても世話ができません」
ここで出てきたHbA1cとは赤血球に糖がくっついている割合です。健常者の血糖値は70~120mg/㎗で、その時のHbA1cの数値は6.2%未満となります。しかし、血糖を下げる力が低下し、血糖値が上昇してくると、赤血球は濃いブドウ糖の中につかって流れることになります。白いタオルを泥水につけておくとタオルが泥で汚れて茶色くなるように、赤血球もブドウ糖で汚れるため、HbA1cが高くなるわけです。
HbA1cの数値だけ見ていても、その重症度は直感しづらいです。そんな時は、体温に置き換えて考えてみましょう。例えば、HbA1cが6.5%以下なら平熱の36.5度以下というイメージですが、HbA1cが8%だと、糖尿病としては38度の熱が出ているのと同じくらいと考えていいです。大人で38度も出ているとつらいですよね。
会話は続きます。
私「HbA1cが12.3%ということは、糖尿病としての症状は気づかなくても、42.3度の熱が出ていることと同じなんですよ!」
夫「えー。知らんかった。お母ちゃん、そら、大変やわ。中学生の子のことは上の子どもたちが面倒見れますわ。先生、はよ、お母ちゃんを入院させてください!」
では、この患者さんはいつごろから血糖値が上がりだしたのでしょうか。
実は、患者さんが産んだ赤ちゃんの体重から、ある程度、血糖値を推察できます。
第1子……23歳の時、40週で出産。子どもは3020g
第2子……32歳の時、40週と2日で出産。子どもは3900g
第3子……38歳の時、妊娠中毒症のため39週で出産。子どもは3800g
患者さんは主治医から第3子を出産した時に「糖尿病がある」と言われたそうです。出産後はとくに病院を受診することはなく、今に至ったとのことでした。
このように経過を振り返ると、40週で3000gが基準なので、第2子の誕生時の体重がかなり大きかったことが分かります。おなかの中で赤ちゃんは食べ物からブドウ糖をとることはなく、臍帯(さいたい)を通じてお母さんから流れてきた栄養素豊富な血液からブドウ糖を得ます。
例えば、糖尿病でないお母さんの血糖値が70~120㎎/㎗なら、赤ちゃんのそれは40~60㎎/㎗となります。一方、糖尿病のお母さんの血糖値が150~200㎎/㎗なら、赤ちゃんの血糖値は60㎎/㎗よりずいぶん高くなります。
この高い濃度の血糖は赤ちゃんの膵臓(すいぞう)から出るインスリンによって赤ちゃんの筋肉や脂肪に送られるため、赤ちゃんの体がどんどん大きくなるのです。このことから、患者さんは32歳の時にはすでに血糖値が高かったことがうかがわれます。徐々に血糖値が上がってきたので、体も順応して慣れてゆき、何も症状を感じなかったのでしょう。
妻「そういうことですから、第2子を出産した時からずっと高かったのですね。入院する都合はつけるようにします。大丈夫ですよ」
血色素量の低下、消化管や子宮からの出血の可能性も
この患者さんには、さらに気になるデータもありました。血色素量(Hb)が低下していたのです。
ヘモグロビンとは赤血球に含まれる赤色素たんぱく質のことで、鉄(ヘモ)とたんぱく質(グロビン)がくっついてできています。血色素量は、体内の血液中に含まれるこのヘモグロビンの量をいいます。鉄が不足するとヘモグロビンをつくることができず赤血球が小さくなり、数も減るため、体の隅々にまで酸素を送り届けることができなくなり、動悸(どうき)や息切れ、疲労感などが起きやすい「鉄欠乏性貧血」になります。
この患者さんの場合、症状はなかったのですが、しっかり向き合う必要があります。データを振り返ってみます。いずれも血液1㎗当たりの値で、
1月……14.3㎎
2月……13.1㎎
3月……11.4㎎
4月……9.0㎎
と下がる傾向にありました。
貧血がある時は、赤血球1個あたりの大きさを表すMCV、ヘモグロビン量を表すMCHから、赤い血を作る材料の何が足りないのかを示唆してくれます。例えば、ビタミンB12や葉酸が不足する時は血球が大きくなるためMCVが大きくなります。ヘモグロビンの材料である鉄が少ない場合には軽くなるためMCHが小さく、赤血球も小さくなるためMCVが小さくなります
一般に、MCVの基準値は80~99fℓ(fは1000兆分の1)です。この患者さんの場合、MCVの値が22と小さいことから、鉄が少ないことから生じる貧血を考える必要があります。鉄が少ない場合は、体内に入るのが少なすぎたり、逆に体内から出過ぎたりしていないか考えます。話を聞くと、食事はきちんととれているとのことだったので、体内に入る量の問題よりも、どこからか鉄を失っていないか考えます。胃や大腸など消化管から、便に赤い血が混じっていない程度に少しずつ出血していないか、子宮から出ていないか、検査をする必要があります。
夫「よーくわかりました。お母ちゃんは、症状はないけれど、血糖はずっと前から高い数値が続いていた。貧血もあって、体のどこからか鉄が出て行ってしまっているかもしれないので、そこも調べる、ということですね。どうぞよろしくお願いします。お母ちゃんが入院でいない間、家族で力を合わせて頑張ります!」
これまで見てきたように、血液検査は症状が出る前でも体の変調を伝えてくれるものです。健康と思っていても、どこかの臓器が助けを求めていないか、毎年の健診で血液検査を受けることが大切です。異常値を放置せず、適切に理解して行動して、健康力を発揮してください。検査が何を表すのか、簡単でよいので理解し、健康リテラシーを備えておくことは、自分と大切な人を守ることにつながります。いま一度、自分の健診結果を見直してみましょう。
特記のない写真はゲッティ
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金子至寿佳
和歌山医療センター糖尿病・内分泌内科部長
かねこ・しずか 三重県出身。医学博士。糖尿病医療に長く携わる。日本糖尿病学会がまとめた「第4次 対糖尿病5カ年計画」の作成委員も務めた。日本内科学会認定医及び内科専門医・指導医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年病学会認定老年病専門医・指導医。インスリンやインクレチン治療薬研究に関する論文を多数執筆。2010年ごろから、糖尿病診療のかたわら子どもへの健康教育の充実を目指す活動を始め、2015年からは小中学校で出前授業や大人向けの健康講座を展開している。