|
毎日新聞2024/4/14 東京朝刊有料記事2155文字
ホバークラフトまたはホーバークラフト(英語: Hovercraft)は、圧縮空気を下向きに噴出することで浮上航行を行う高速船である[1]。浮上状態では抵抗が極めて少ないため、およそ100 km/hでの高速航行が可能。船舶だが水陸両用であるため陸上で乗降できる。
大分空港(大分県国東(くにさき)市)と大分市中心部を結ぶ海上ルートに今秋、水陸両用船の「ホーバークラフト」が就航(しゅうこう)します。空港アクセスの利便性向上が期待されていますが、過去にもほぼ同じルートで定期航路が運航され、2009年に撤退(てったい)した経緯(けいい)があります。かつては日本各地で活躍していた「夢の乗り物」はなぜ姿を消し、今回の復活劇となったのか、背景を探りました。
◆大分で15年ぶりに復活するの?
訪日客増、空港利便性向上狙う
なるほドリ 大分県で今秋、ホーバークラフトが就航するんだってね?
記者 国東半島にある大分空港と大分市中心部を海上ルートで結ぶ予定です。空港と市中心部は直線距離で約30キロ離れていますが、現在のアクセス手段はバスなど陸路に限られ、別府湾(べっぷわん)をぐるっと回る必要があります。バスの所要時間は約1時間で、交通渋滞が発生すると更にかかるため、県が導入を決めました。
Advertisement
Q 導入されるホーバークラフトはどんなの?
A 全長約26メートル、全幅約13メートル、最大80人乗りで、英国で製造されました。最高速度は時速約83キロで、所要時間は約30分に短縮される見通しです。3隻導入され、「Baien(ばいえん)」「Banri(ばんり)」「Tanso(たんそう)」と名付けられました。江戸時代に大分で活躍した「豊後(ぶんご)の三賢人(けんじん)(哲学者の三浦梅園(みうらばいえん)、儒学者(じゅがくしゃ)の帆足万里(ほあしばんり)と広瀬淡窓(ひろせたんそう))」にちなみます。
Q 過去にも運航されていたんだよね?
A 大分空港が開港した1971年10月から、ほぼ同じルートで運航していました。しかし、利用者が90年度をピークに減少を続け、運営企業の経営が悪化。建造と保守を担当した三井造船(当時)が事業から撤退したこともあり、2009年11月に運休しました。
Q どうして復活することになったの?
A 別府や由布院(ゆふいん)など国内でも有数の温泉地がある大分県では、海外を中心に観光客が増えています。新型コロナウイルス禍前の18年度は大分空港の利用者は200万人を超え、今後も増加が見込まれることが背景にあるようです。
Q 今回は大分県が運営するの?
A いいえ、ホーバークラフトは県が所有し、民間企業に貸し出して運航も任せる「上下分離方式」を採用しています。運休に追い込まれた過去の経験を踏まえ、企業側の負担を軽くしようと、県が約42億円で3隻を購入しました。運航は、タクシー最大手の第一交通産業(北九州市)の子会社「大分第一ホーバードライブ」が担います。
Q 一度撤退したのに、採算は大丈夫?
A 同社は定期航路のほか、別府湾の周遊計画などで収入源の確保に努めるとしています。しかし、経営の安定には定期航路の利用者増が欠かせません。同社は利用料金を運休前よりも1000円ほど安い片道2000円前後に設定したい意向で、年約40万人の利用を目指しています。
Q 就航したら乗ってみたいな。
A 操縦士の訓練を始めた23年11月、接触事故を起こし、当初目指していた24年3月の就航を断念しました。その後は訓練態勢を強化しています。まずは安全に運航してほしいですね。
◆どんな特徴があるの?
一般の船より高速、波の影響大
Q ホーバークラフトはどこで誕生したの?
A 1950年代に英国で発明されました。船体下部の「スカート」にファンなどで空気をため、底から空気を勢いよく噴き出すことで船体が少し浮き上がります。この状態を維持しながら、船尾(せんび)などに付けられた推進・操向(そうこう)用のプロペラを回すことで、水上でも陸上でも自由に走ることができます。
Q どのような特徴があるの?
A 船体が浮いているので水の抵抗がなく、一般的な船よりも高速で進むことができます。一方、浮かぶのにエネルギーを要するため燃費が悪くなります。また、悪天候時は波や風の影響を受けやすいため、安定性の面で劣ります。航路は波が高くない場所を選ぶ必要があります。
Q 日本ではいつから使われていたの?
A 九州商船(長崎市)が67年、熊本市と熊本・天草(あまくさ)、長崎・島原(しまばら)などを結ぶ航路で初めて導入しました(翌68年に廃止)。大分空港と大分市を結ぶ航路以外でも、本州と四国を結ぶ宇高(うこう)連絡船で72~88年に使用されていたほか、三重・鳥羽(とば)でも一時使われていました。75年の沖縄国際海洋博覧会では、那覇市と会場とを結ぶ輸送手段にもなりました。
Q 今は全然使われていないんだ。
A いいえ、海上自衛隊は93年度からエアクッション(ホーバークラフト)型揚陸艇(ようりくてい)(LCAC)の導入を始め、現在は第1輸送隊(広島県呉市)に6艇が所属しています。水が浅いところや海岸にも接岸できるため、2011年の東日本大震災や24年1月の能登半島地震でも、被災地に支援物資を輸送する際に活躍しました。=回答・石井尚(大分支局)、森永亨(社会部西部グループ)<グラフィック・舘七菜子>