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毎日新聞2024/4/28 東京朝刊有料記事2165文字
<気になる>
ホテルや旅館の利用客から徴収(ちょうしゅう)する「宿泊税(しゅくはくぜい)」を導入したり、検討したりする自治体が増えています。近年、外国人を中心に観光客が増えており、その負荷が社会問題化した「観光公害」を解決しようとする狙(ねら)いや、さらに観光客を呼(よ)び込(こ)むための資金を確保する思惑(おもわく)があります。期待される効果や課題を調べました。
◆なぜ広がっているの?
観光客増え道路整備など必要
なるほドリ 旅行先のホテルで、宿泊税を払ったよ。最近、よく耳にするけれど、どんな税なの?
記者 九つの都府県と市町が導入しており、いずれも地方税法で定める税とは別に自治体が条例を制定して独自に課税する法定外税(ほうていがいぜい)です。9自治体とも税の使途(しと)を観光関連などに限定しており、こうした税は目的税と呼ばれます。導入の是非を議論する自治体の多くも「法定外目的税」として宿泊税を検討しています。
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Q 導入している自治体はどこ?
A まず東京都が2002年に徴収を始めました。大阪府が17年に導入してから各地に広がり始め、京都市、金沢市、北海道倶知安(くっちゃん)町、福岡県、福岡市、北九州市、長崎市と増えました。北海道ニセコ町でも24年11月からの課税が決まっています。税率は自治体によって異なります。東京都は宿泊料金が1人1泊1万円以上1万5000円未満の場合に100円、1万5000円以上で200円を徴収しています。観光地として人気の京都市は2万円未満が200円、2万円以上5万円未満が500円、5万円以上が1000円。ウインタースポーツを楽しむ訪日客が多い倶知安町は宿泊料金の2%に設定しています。東京都や京都市は増税を議論しています。
Q 導入を検討中の自治体も多いみたいだね。
A 北海道、札幌市、青森県弘前市、宮城県、仙台市、千葉県、長野県、愛知県常滑市、松江市、熊本市など全国各地で検討されています。静岡県熱海市は市議会で宿泊税条例が可決され、25年4月の導入に向けて総務相(そうむしょう)の同意を得る手続きが進められています。
Q なぜ広がっているの?
A 観光税に詳しい大東文化大(だいとうぶんかだい)の塚本正文(つかもとまさふみ)教授(財政学(ざいせいがく))によると、宿泊税の導入や検討が拡大する背景に、近年の観光客増加があるそうです。観光客が増えると、関連産業の売り上げが伸び、地域経済が活性化します。一方、多くの人が訪れるため、道路やトイレの整備が必要になったり、ごみ処理の量が増えたりと地元住民が納めた税金からの支出も増えます。
支出側から見ると、観光客は対価を支払わずに公的サービスを享受(きょうじゅ)する「フリーライダー」です。享受する公的サービスに見合った税を負担してもらう方法として、宿泊税が注目されるようになりました。
◆どんな課題があるの?
通院や介護の人もメリットを
Q 観光客はそんなに増えているの?
A ビジネス利用などを含みますが、観光庁の宿泊旅行統計調査によると、全国の延べ宿泊者数は11年が4億1723万人泊だったのに対し、23年は1・4倍の5億9275万人泊。特に外国人宿泊者数の伸び率が高く、11年は1841万人泊でしたが、23年は6・2倍の1億1433万人泊になりました。日本人宿泊者数も同じ期間で1・2倍に増えています。
国連世界観光機関(UNWTO)の統計をみると、世界の国際観光客到着数も伸びています。観光庁は、モノ消費からコト消費へ移り変わる世界的トレンドに加え、政府の観光立国施策(かんこうりっこくせさく)、円安が相乗効果(そうじょうこうか)となり、外国人宿泊者数の大幅増につながったとみています。
Q 集めた税金は何に使っているの?
A 京都市の場合、23年度は119番通報の多言語通訳の運営費や鉄道施設整備、観光地の交通対策などに使いました。北海道は23年度の有識者会合で、導入した場合はオーバーツーリズム対策や広域観光を便利にする交通機能強化などに充(あ)てる案をまとめました。北海道は旅行先として人気が高いため、道だけでなく札幌市や函館市、帯広市など多くの自治体が宿泊税導入を検討しています。そのため、道は広域的な施策に宿泊税を使う方針を決めました。
Q 旅行が快適になるとうれしいね。課題はあるの?
A 宿泊客が「税を納めてよかった」と実感できることが大切です。自治体が満足できる公的サービスや投資効果を提供できなければ、負担感だけが残ることになります。
また、宿泊施設の利用は観光客に限りません。仕事のほか、通院や介護で利用する人もいます。観光でない場合でも、宿泊や移動の際にメリットを得られるようにしたり、場合によっては一部の人たちを免税にしたりする配慮が必要です。金沢市は能登半島地震の被災者を宿泊税免除の対象にしています。
受益(じゅえき)と負担が釣り合い、税の原則である公平性が保たれているかについて行政や議会、住民が厳しい目を向け、誰もが納得できる制度ができるといいですね。(社会部北海道グループ)<グラフィック・大井美咲>