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毎日新聞2024/4/29 東京朝刊有料記事1011文字
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緑がまぶしい季節になってきた。窓を開ける機会が増えるためか、初夏になると子どもの転落事故が多発する。東京都内では過去5年間で、5歳以下の子ども65人が窓やベランダから落ちて救急搬送されており、5月が19人と月別では最多だ。先日も広島市でマンションから3歳の女の子が転落死する痛ましい事故が起きた。
転落は乳幼児の身近な事故で、搬送件数は毎年大きく変わらない。0歳はベッド、1歳は階段からが最も多く、その傾向も同じ。
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「交通事故の死傷者が減ってきたのは、継続的な情報分析と目標設定、評価ができているから。日常生活の事故でも、同様のシステムと司令塔が必要だ」。横浜市の小児科医、山中龍宏さんは、同じ事故が繰り返されることに、もどかしさを訴える。
山中さんは子どもの事故予防活動の先駆けだ。1985年、勤務先の病院で学校プールの排水口に吸い込まれた中学生が亡くなったことがきっかけだった。小児科医が日常診療で遭遇した子どもの負傷の情報を収集し、公開する試みを始めた。乳児用ベッドの規格の改良に結び付いたこともある。
2008年に取材した時は、公園の遊具の安全対策に取り組んでいた。滑り台の階段から落ちて頭を打った1歳の子が診察を受けに来た。そこで現場を見に行き、研究者と改善策を検討した。行政に伝え、階段下の地面がコンクリートからゴムマットに変わった。
子どもの事故が起こると「親の不注意」が責められる。親は言い出しづらくなり、情報が共有されないため再発防止につながらない。「常に見ていることはできないし、人は間違えるもの。製品や環境を変えていくのが社会の役目」というのが、山中さんの一貫した考えだ。
変化も感じているという。通園バスの置き去りで子どもが熱中症で亡くなる事件が続き、1年前に置き去り防止の安全装置の取り付けが国の補助で義務化された。
後を絶たない住宅の窓やベランダからの転落は、消費者安全調査委員会(消費者事故調)が昨夏から防止策を検討中だ。「注意喚起だけでは駄目。ハード対策がキーワード」(中川丈久委員長)との姿勢で、補助錠や転落防止ネットなどの有効性を調べている。
物に頼ればいいものではない。ただ「人の努力だけに頼らず、不注意をカバーしようという考え方が出てきたのは進歩」と山中さんは受け止める。
「少し目を離しても安全」。そんな環境作りは、子育て支援策にもなるはずだ。(専門記者)