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毎日新聞2024/5/2 06:00(最終更新 5/2 06:00)有料記事1759文字
試験開始を待つ受験生ら=名古屋市千種区の名古屋大で2023年2月25日午前9時47分、川瀬慎一朗撮影
少子化は、学歴社会をどう変えるのだろうか。18歳人口の減少で大学の「全入時代」が近づき、難関大でも合格のハードルが下がっているという。だが、千葉商科大の常見陽平准教授(労働社会学)は「ますます学歴社会になるでしょう」と予測する。一体どういう意味なのか。
学歴といえば、高卒か大卒かといった最終学歴を指したり、卒業した大学はどこかといった意味で使われたりする。だが、常見さんが言う“学歴”は、これまでとは意味が異なる。
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「これからの“学歴”は、“学校歴”ではなく、“学習歴”を意味するようになるでしょう」
「学習歴とは、どんなところで、どんな方法で、どんな学びをしてきたのかを意味します。生涯を通じて更新し続けるもので、今後はより重要さが増すと思います」
「ラベルよりレベル」
多くの企業と就活生が集まった合同会社説明会=福岡市中央区のペイペイドームで2023年3月1日午後3時19分、徳野仁子撮影
なぜ少子化で、“学習歴”が大切になるのか。常見さんによると、人手不足と多様な人材を採用したい企業の思いが相まって、新卒採用で、従来の意味の学歴を重視する傾向は弱まっているという。
転職も一般的になり、学歴よりも、仕事を通じて学び続け、キャリアを自らデザインする力のある人が活躍できる社会に変わってきている。
また、少子化が進むなかで、夫婦共働きで世帯収入が比較的多い「パワーカップル」や、一人っ子の家庭は増え、教育にお金と時間をかけられる家庭と、そうではない家庭の差が広がっている。
近年の親のニーズの特徴として「最終学歴の名門校という“ラベル”を手に入れるためではなく、そこでどんな学ぶ姿勢を身に付けられるのか、人生を生き抜く力を育めるのか、どんな仲間を得られるのかといった“レベル”を求める傾向にあります」
千葉商科大の常見陽平准教授=千葉県市川市で2022年7月29日、三浦研吾撮影
中学受験熱が高止まりしているのも、こうした背景が関係している。
「よい教育を求める親のこだわりが、今後はより顕著になる。だから学歴競争は形を変えて、むしろ過熱するんじゃないか、というのが僕の見立てです」
「いかに難関大に合格するか」ではなく、「うちの子にフィットするいい教育って何なんだろう」という情報を求める機運が盛り上がるのではないか。そう常見さんは感じている。
少子化で難関大も合格率アップ
「少子化で、学歴の持つステータスが下がるかもしれません」
そう話すのは、河合塾教育研究開発本部主席研究員の近藤治さんだ。
東京大の入学式を前に記念撮影する新入生たち=東京都千代田区の日本武道館で2024年4月12日午前9時38分、幾島健太郎撮影
「(現在50歳前後の)保護者の方が高校生だった頃は、日本の大学入試はものすごく難しかった。当時、日東駒専(日本・東洋・駒沢・専修)に合格する成績の生徒が現代に生まれ変わったら、早稲田・慶応を十分に狙えるくらいです」
保護者向けの講演会で、親世代と現在の大学受験の違いについて、近藤さんはそう説明するのだという。
文部科学省の外郭団体「日本私立学校振興・共済事業団」によると、私大の53・3%(2023年度)が入学者の定員割れを起こしている。河合塾の調べでは、早慶上理(早稲田・慶応・上智・東京理科)、MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)と呼ばれる難関大でも、これまでボーダーラインだった成績層の生徒の合格率が、20~23年度の間に8~11%上昇している。
「少子化で志願者が減少している影響で、特に紙一重の勝負をしていた成績層の生徒が合格しやすくなっています。これから先、現状より大学入試が難しくなることはないでしょう。椅子取りゲームの参加者が爆発的に増えることがないからです」
常見陽平さん=千葉県市川市で2022年7月29日、三浦研吾撮影
問われるものは?
近藤さんは今後、大学に対する評価も変化していくだろうと見る。
「昔は、偏差値の高い大学を目指し、大学入学がゴールという風潮でした。これからは、難関といわれる大学でも偏差値だけ見れば下がっていきますから、学歴の価値は下がる可能性があります」
「『あそこの大学に合格したから、すごいね』という感覚は薄れるでしょう。学生は、大学4年間でどう成長したか、そして卒業後も仕事を通じて成長し続けているかどうかを見られる。教育内容など本来の意味での大学評価がこれまでよりもクローズアップされる時代がやってくる」
偏差値にとらわれない進路選択は以前から言われているが、少子化でそれが一層加速するのかもしれない。【デジタル報道グループ・大沢瑞季】
<※5月3日のコラムは社会部大阪グループの鵜塚健記者が執筆します>