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糖尿病や心臓病のリスクも 「超加工食品」を食べ過ぎないためには金子至寿佳・日本赤十字社 和歌山医療センター 糖尿病・内分泌内科部長
2023年11月22日
日本でも広く流通している「超加工食品」(ultra-processed foods)。便利なのでついつい利用しがちですが、栄養のバランスが悪いものが少なくないことはご存じでしょうか。食べ過ぎは糖尿病や心臓病のリスクを引き上げるなど体に害でもあります。超加工食品から身を守るためにすべきこととは何でしょうか。
総エネルギーの3~5割
「体がだるく、口が渇き、トイレに何度も行くようになった」――。ある時、こんな悩みを抱えた50代の女性が、私のいる病院にやって来ました。
一般に血糖値が朝食前の空腹時で126mg/dl以上で、食後から2時間経過した時で200mg/dl以上、またはヘモグロビン(Hb)A1cが6.5%以上で糖尿病と診断されます。そこで女性の血液を検査すると、血糖値は400mg/dlを超え、HbA1cも15.0%と、いずれも異常に高い数値でした。
いろいろと原因を探るうち、女性は食事についてこんなことを言い出したのです。
「365日、冷凍食品を食べていました。食事を作るのが苦手で……」
糖分や塩分、脂肪を多く含む加工済みの食品のことを「超加工食品」といいます。身近な例としては、菓子パンやカップ麺などのインスタント食品、シリアル、ソフトドリンク、お菓子、加工肉などがあります。冷凍食品もその一つです。
常温で保存し、日持ちを良くするため保存料を含んだり、果糖やうまみであるアミノ酸、油脂などが加えられたりしたものもあります。お昼ご飯やおやつとして口にする菓子パンは果糖が多く、人工油脂などもたっぷり使われていて、糖尿病の患者さんが高血糖になる原因になっています。
超加工食品は日本の食生活にかなり浸透しています。東京大チームの研究によると、20~69歳の388人の食事記録から、超加工食品からのエネルギー摂取量は1日の総エネルギー摂取量の3~5割程度を占め、それが多い人ほど食事の質が低いとのことでした。
高脂肪食で血糖値下がらず
女性は食事にあまりに無頓着だったため、入院治療中に何が適正な食事なのかを覚えることにしたのです。
冷凍食品の裏側には、栄養成分表示が記載されています。
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たとえば、女性がよく食べるというある冷凍チャーハンは、100g当たり
・エネルギー 213kcal
・たんぱく質 5.7g
・脂質 7.6g
・炭水化物 30.5g
・食塩相当量 1.0g
とありました。
毎食、1袋(450g入り)を食べきっていたという女性。計算すると、
・エネルギー 958.5kcal(=213kcal×450g÷100g)
・脂質(1g=9kcal) 307.8kcal(=7.6g×9kcal×450g÷100g)
・塩分 4.5g(=1.0g×450g÷100g)
となります。
50代の女性が1日に必要なエネルギーはおよそ1950kcalなので、冷凍チャーハン1食で約半分のエネルギーをとることになります。
また、エネルギーのうちの32.1%(=307.8kcal÷958.5kcal×100)が脂質によるものです。生活習慣病予防のため日本人が当面目標とすべき脂質によるエネルギー摂取量(20%以上30%未満)からも外れています。
さらに、健康な女性に推奨される1日の塩分摂取量は6gですが、ほぼそれに匹敵する量が冷凍チャーハンには含まれています。
女性にインスリン注射をして血糖値を下げようとしたのですが、高脂肪の超加工食品を取り続けていたせいか、血糖値はなかなか下がりませんでした。砂糖の取り過ぎで血糖が高い人は、口にする砂糖さえやめれば、多くは血糖を簡単に下げられます。しかし、脂肪を取り過ぎると、たまった脂肪が毒性を発揮し、膵臓(すいぞう)からのインスリン分泌が低下する上、そもそもインスリンが効きにくくなるのです。女性は2週間がたち、ようやく血糖値が下がり始めました。
女性は「料理が苦手」とのことでしたが、白米を炊いて、お刺し身なら調理の必要はありませんし、お肉を炒めたりするくらい大した手間になりません。サラダも買ってくれば大丈夫。白米を炊くのも余裕がない人もいますが、その場合はすでに炊いたものが売られていますし、余ったら冷凍して保存をすればよいことをお伝えしました。
レトルトのスパゲティも
このように超加工食品は高カロリーで脂質や塩分が多く、栄養のバランスを著しく欠くものが多くあります。他にも、例えば、女性が毎食食べきっていたというスパゲティソース(ボロネーゼ)の栄養成分表示には、1袋300g当たり、
・エネルギー 572kcal
・たんぱく質 23.1g
・脂質 45.0g
・炭水化物 18.6g
・食塩相当量5.2g
と書かれています。
脂質(1g=9kcal)は405kcal(=45.0g×9kcal)となります。このレトルトソースのエネルギーは572kcalのため、実に70.8%(=405kcal÷572kcal×100)が脂質によるエネルギーだったわけです。
スパゲティ1人前は100gで
・エネルギー 150kcal
・炭水化物 73.9g
・脂質 1.9g
・たんぱく質 12.2g
脂質は17.1kcal(=1.9g×9kcal)なので、(17.1+405)÷(150+572)=58.5%とエネルギーの半分以上を脂質で摂取していたことになります。
ちょっとした手間を惜しまないで
最近では健康に良いとされる栄養素やビタミン、食物繊維を含むことをうたった超加工食品も増えてはきていますが、総合的にどのようなものを含むのか考えることが大切です。
生鮮品から食事を作る時間的、金銭的余裕があればいいのですが、忙しい生活の中で、生鮮品を手に入れることが難しい場合もあり、また調理を苦手とされる人もいます。そんな場合でも、常に超加工品に頼るのではなく、含まれているものを知った上で、上手に利用するのが良いと考えます。
厚生労働省のホームページにも、こう記載されています。「利用頻度が高くなるとエネルギーや脂肪・食塩などの過剰摂取につながるといった問題点もあるため、食生活のなかで上手に利用することが重要です」
超加工食品に偏った食べ方が続くと、高脂肪や塩分を多く含むため、高血圧や糖尿病に代表される生活習慣病の発症につながりかねません。超加工食品の摂取はカロリーの過剰摂取や肥満を引き起こすリスクが高いという研究が海外でいくつか報告されています。さらに、肥満にとどまらず、心血管疾患のリスクが増えるという研究もあります。
忙しい時でも、超加工食品にたよらなくとも、スーパーやコンビニで、例えば、サラダ、お刺し身、お総菜を買ってくることもできるはずです。ぜひ、自分の健康、そして大切な人の健康のため食のあり方に気をつけてみてください。
写真はゲッティ
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かねこ・しずか 三重県出身。医学博士。糖尿病医療に長く携わる。日本糖尿病学会がまとめた「第4次 対糖尿病5カ年計画」の作成委員も務めた。日本内科学会認定医及び内科専門医・指導医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年病学会認定老年病専門医・指導医。インスリンやインクレチン治療薬研究に関する論文を多数執筆。2010年ごろから、糖尿病診療のかたわら子どもへの健康教育の充実を目指す活動を始め、2015年からは小中学校で出前授業や大人向けの健康講座を展開している。