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毎日新聞 2023/6/15 00:00(最終更新 6/15 04:11) 769文字
土星衛星エンセラダスの内部のイメージ=米航空宇宙局(NASA)提供
地下に海があることで知られる土星の衛星エンセラダスから噴出した海水に、極めて高濃度のリン酸が含まれていたと、東京工業大や海洋研究開発機構などの国際チームが15日付の英科学誌ネイチャーに発表した。リンは地球生命に必須の元素で、地球以外でこれだけ高い濃度で見つかるのは初めて。チームは「私たちと物質的に似た生命が存在する可能性が考えられる」と話している。
氷に覆われたエンセラダスの地下には、液体の海や熱水を噴き出す穴があることが分かっている。2017年には米欧の無人探査機カッシーニが地表から宇宙空間に噴出する海水を観測。有機物や水素分子などが含まれていることが分かり、生命が存在しうる環境として注目されてきた。
土星探査機カッシーニの想像図=米航空宇宙局(NASA)提供
今回の研究では、まず欧米のチームが、カッシーニが観測した噴出海水に地球の海の数千~数万倍の高い濃度のリン酸が含まれていることを突き止めた。
この要因を探るため、関根康人・東工大地球生命研究所長(惑星科学)ら日本のチームは、エンセラダスの海の環境を模した化学反応実験を行った。すると、アルカリ性でかつ高炭酸の海水環境では、岩石からリン酸が溶け出し、高い濃度になることが分かったという。
こうした環境は、土星の他の衛星や日本の探査機はやぶさ2が試料を持ち帰った小惑星リュウグウの母天体など、太陽系外側の氷天体内部に広く存在するという。そうした場所でも高濃度のリン酸が生まれている可能性がある。
リンはDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)、細胞膜の材料となるなど地球生命にとって不可欠な元素だ。関根所長は「高濃度のリンの集まりは地球生命誕生の鍵。エンセラダスは地球生命と物質的に類似した生命を宿している可能性がある。加えて地下の海水が宇宙空間に噴出しており、探査機で直接回収可能だ」と今後の探査に期待を寄せた。【田中韻】