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ゲッティ
現代社会においては、豊富で充実した食生活が営まれています。一方で、硬く歯ごたえのある食べ物が減り、子どもたちの食の好みは軟らかいものが多くなり、かまない子、かめない子が増えています。その結果、かみくだく機能が低下し、あごの発育や形に変化が起き、顔の変化をはじめ、全身にもさまざまな弊害が生まれています。これらの長年にわたる影響で、日本人の顔も変化し、歯並びの悪い子供が増えているのです。
歯が生える際に起きるさまざまな問題である「萌出(ほうしゅつ)障害」を見かけることがあります。萌出障害には過剰歯、歯胚位置異常などがあります。その一部を紹介します。
複数の過剰な歯と犬歯の埋伏・萌出方向異常
根来医師提供
上顎(じょうがく)前歯部に複数の過剰歯と、左側の犬歯には埋伏や萌出方向の異常があります。既に上顎左側中切歯の歯根は吸収し、保存不可能の状態。放置すると危険です。
下顎第2大臼歯の萌出障害
根来医師提供
最近、増加している下顎左右第2大臼歯の水平埋伏です(写真)。この臼歯は12歳ごろに生えてきますが、学校での健診ではレントゲンによる診査を行わないため、先天性の欠如や埋伏などは発見が遅れる可能性があります。そのため気づかずにいると、かみ合わせの異常などの重症化につながります。歯科医師が早期に発見し、的確に対応することによって、悪影響を最小限にとどめることができます。
矯正治療はいつ始める?
一般的に矯正治療は「小児」と「成人」とに分かれます。小児の矯正治療は成長や発育を利用して、あごの発育促進や発育抑制を行い、正常な状態に近づけたり、スペース不足の改善を行ったりします。そのため永久歯を抜く治療は回避できる可能性があります。矯正治療の開始年齢は永久前歯が生えてくる時期の7~8歳ごろがいいでしょう。
一方、成人の場合、成長や発育がないため、骨格的な改善ができず、永久歯を抜く治療の可能性が高くなります。骨格的な異常が著しい場合は外科的な処置を併用する必要があります。
矯正装置にはどのようなものが?
矯正装置には取り外しがきかない固定式と、自身で取り外しが可能な可撤式があります。最近では可撤式であるアライナー(マウスピース型)矯正を行う歯科医院が増えています。その一方で、アライナー矯正に対する患者様からの苦情も増えています。
ここで、一般に行われているワイヤによる矯正治療とアライナー矯正のメリットとデメリットを示します。日本矯正歯科学会が提言している内容を参考にしています。正確な診断と治療方針を提供してくれる歯科医院で治療を行うことをお勧め致します。
ワイヤ矯正治療のメリット・デメリット
メリット▽歯を三次元的に移動させることができる▽多くの症例に対応可能で、複雑な歯並びの改善に適している。
デメリット▽汚れがたまりやすく、虫歯や歯肉炎のリスクがある▽矯正力による痛みや違和感がある▽口内炎ができることも▽審美的に目立つ場合がある▽熟練した技術が必要である。
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アライナー矯正治療のメリット・デメリット
メリット▽審美的に優れている▽装置の着脱が簡単で食事や歯磨きがしやすい▽金属アレルギーの患者に提供ができる▽診療室での治療時間が比較的短い。
デメリット▽歯の移動量の少ない症例に限られる▽毎日長時間の装着を必要とし、使用状況によって効果が大きく異なる▽小児や骨格性要因を含む症例には適さない▽現在の医療水準で考えれば精密な歯の移動は原則として困難で、満足のいく治療結果が得られない可能性がある。
適切な矯正治療で美しく
根来医師提供
ある事例を紹介します。
8歳の女子で著しい骨格的な上顎前突(出っ歯)が認められます。口を唇がうまく閉じることができない状態です。まずは下顎の成長発育を行う装置を使用しました。骨格的な改善があり、さらに口唇部の改善を希望されたため、上と下の第1小臼歯を抜去し、ワイヤ矯正で2年間治療しました。とても美しく矯正治療できました。
根来医師提供
(根来武史・愛知県歯会員、日歯会誌編集委員会委員)