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毎日新聞2024/5/10 東京夕刊有料記事893文字
愛知県庁=鮫島弘樹撮影
わかりやすく言えば「結婚」と「同棲(どうせい)」の間というイメージだろうか。フランスには「連帯市民協約」(PACS、パックス)という制度がある。結婚していない2人が、共同生活を送るにあたって契約を交わせば、結婚に準じた法的保護を受けることができる。カップルは同性、異性を問わない。
これを参考にした日本版PACSの導入を、愛知県が提唱している。大村秀章知事が中心となり、古本伸一郎副知事ら職員チームが支える。昨年7月の全国知事会議で提案すると、賛同する意見も出た。民法の改正が必要になるため、最近は、霞が関や永田町への要請活動を活発化させている。
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「はて? なぜ愛知県が?」と最初に聞いた時、意外な感じを受けた。たまたま私はこの県出身だが、昔から「保守的」な県民性を指摘され、事実かどうかは別にして、そういう見方がすり込まれているからだろう。政治的にハードルの高いテーマに挑もうとしていることに、少し驚いた。
日本版PACSの目的は、大きく言って二つあるという。
一つは、事実婚のカップルの間に生まれた婚外子(非嫡出子)の権利を守ることだ。
フランスでは、嫡出子と非嫡出子の区別はなく、両親は共同で親権を持てる。だが日本では、非嫡出子は原則として母親の単独親権となり、法的な保護も不十分だ。この現状を改善し、子どもの権利保護を目指す。
もう一つは、少子化対策につなげることだ。
フランスは同性カップルを念頭に1999年に制度を創設したが、異性カップルも選択するようになり、普及が進んだ。結婚せずに子どもを持つカップルが増えたことで、出生率の向上にも一定の効果があったと指摘されている。
愛知県の人口は全都道府県4位の約740万人だが、2020年から減少に転じた。この県でも少子化対策が課題となっている。
政治家や官僚たちからは「まさに異次元の少子化対策」「カネをかけずにできる」と理解を示す声が出ているという。
事実婚に法的保護を与える制度は、スウェーデンの「サムボ」などもある。日本でも選択肢が広がることは歓迎だ。愛知県発の挑戦が全国に広がり国を動かせるか、注目したい。(論説委員)