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毎日新聞2024/5/12 東京朝刊有料記事1866文字
大好きなブロッコリーを抱えている筆者
老化は人間の宿命だが、老化の研究が進むなか、生活習慣によってある程度老化を遅らせることができる可能性がわかってきた。
老化を進める要因は、主に二つある。一つは、細胞の「糖化」という現象だ。ジュースや甘味料、糖質を含む食べ物を取ると、余分な糖質が体内のたんぱく質と結びついて細胞を糖化させる。糖化は体のコゲとも呼ばれている。
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二つめはサビ、細胞の「酸化」だ。生きるために酸素は不可欠だが、体内に取り込んだ酸素のうちの一部が活性酸素に変わる。活性酸素が増えすぎると、正常の細胞が酸化され、たとえば、肌のシワやシミ、白髪などの老化現象が起きてくる。
サビは、慢性炎症も起こす。慢性炎症は高血圧や高血糖、ストレスなどでも起こりやすく、知らないうちに動脈硬化を進めてしまう。その結果として、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞など血管の病気の原因となる。慢性炎症が脳で起こると、認知症の原因になると言われている。
そんな老化を進めてしまうコゲやサビを、できるだけ抑えることはできるのだろうか。
まず言えることは、血糖値の急上昇を抑えること。サビは血糖値が急上昇したときに起こりやすいため、白米など糖質の多いものを食べるときには、オクラやモロヘイヤ、納豆などネバネバしたものを一緒に食べるとよい。
もう一つ言えることは「抗酸化」だ。野菜には抗酸化力のある色素やビタミンが含まれているので、一日350グラム以上は取りたい。
ついでに言うと、ブロッコリーには抗酸化力のほかに、野菜の中では断トツにたんぱく質が多く、100グラムのブロッコリーには5・4グラムのたんぱく質が含まれている。記憶力に影響を与えると言われているビタミンK、血流を改善する葉酸も多く含まれている。また、細胞の新陳代謝をすすめてくれる亜鉛も豊富。カリウムや鉄なども多いので、血圧を下げる作用や、赤血球を作る作用を増強してくれる。まさに、若返りのスーパーフードと言えるだろう。
筋肉を意識しているスポーツ選手やボディービルダーなどは、ブロッコリーを意識して食べている人が多いが、フレイル(虚弱)が気になるシニアにも、ブロッコリーをおすすめしたい。
人間の体には、オートファジーという老化を抑える仕組みも備わっている。オートファジーは日本語で「自食作用」と呼ばれ、老化した細胞を壊し、新しい細胞に合成し直す仕組みだ。抗老化遺伝子と言われるサーチュイン遺伝子も見つかっている。このオートファジーとサーチュイン遺伝子は、軽い飢餓状態によって働きだすと考えられている。1日の最後の食事から翌日の朝食までの何も食べない時間を16時間取るといいと言われている。しかし、現実問題として16時間はなかなか難しい。
絶食時間が9時間以上になると、たまった脂肪がエネルギーとして使われるようになると言われているので、最低でも9時間以上は絶食時間を取りたい。
ぼくの場合は、夕食を早めの午後6時くらいに終わるように心がけている。そして、翌日の朝食を午前8時に取れば、14時間の絶食時間を確保できる。甘いものやお酒は夕食のときに一緒に取ってもいいが、夕食が終わったら、しっかりと絶食することが大事だ。言うまでもないが、小腹が減ったからといって夜食を食べてしまうと、肥満の原因になるし、睡眠も妨げてしまう。
仕事などの関係で、夕食の時間が遅くなりがちという人は、できれば10時間から14時間程度は絶食時間を取れるように時間を調整しよう。毎日は無理でも、休日は12時間近く絶食時間を確保することはできるのではないか。注意したいのは、絶食する時間は、夕食から朝食の間で確保すること。朝食から昼食までの時間が空きすぎてしまうと、昼食を食べたときに血糖値が高くなりすぎてしまう。
最近、サーチュイン遺伝子を働かせる「NMN」(ニコチンアミドモノヌクレオチド)が話題になっている。高価なサプリメントもあるが、枝豆やブロッコリー、アボカドなどにも含まれている。
以上のような食習慣を意識しながら、運動で筋肉を刺激し、マイオカインという生理活性物質で全身を若返らせていくことも大切だ。そのためにおすすめの筋トレは、スクワット。併せて、かかと落としをすると、チャレンジングホルモンといわれるテストステロンも分泌しやすくなる。
また、絆ホルモンといわれるオキシトシンには、抗酸化力を高める作用があるとする論文も発表されている。人に親切にすることが、若々しさを保つために大切だということだ。(医師・作家、題字も)=次回は7月8日掲載