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毎日新聞 2023/7/4 08:00(最終更新 7/4 08:00) 1303文字
最新作「PROVIDENCE(プロビデンス)」に登場する慎導篤志(しんどう・あつし)。厚生省大臣官房統計本部長を務める=©サイコパス製作委員会
生成AI(人工知能)による対話型サービス「チャットGPT」が爆発的に普及するなど、AIとの向き合い方は大きな議論になっています。11年前に放映が始まったアニメ「PSYCHO-PASS(サイコパス)」では、AIのようなシステムが統治する近未来の日本を描き、映画館では最新作が公開中です。私たちの未来は、アニメのようなディストピア(暗黒世界)に近づいていくのでしょうか。監督を担う塩谷直義さん(45)に話を聞きました。【菅野蘭】
「なってほしくない世界」
2012年にテレビ放送がスタートしたアニメは、19年までに3シリーズが放映されました。23年5月には、長編劇場版としては2本目となる最新作「PROVIDENCE(プロビデンス)」の上映が始まりました。
作品は、人間の思考や性格などを計測できる「シビュラシステム」によって管理される近未来の日本が舞台です。心理状態や性格的な傾向を科学的に測定して数値化し、犯罪者となる可能性が高い人を「潜在犯」として世の中から隔離・排除する社会を描いています。
AIの急速な発展を予想していましたか?
この問いに、塩谷さんは「製作当初はあくまで、AIが人間の社会を管理・統制する『なってほしくない世界』を想定しただけで、言語処理能力が高いチャットGPTの登場などAIの急速な進歩は思いがけないことでした」と話します。
チャットGPTを開発した米新興企業オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は6月12日、慶応義塾大を訪問。学生との意見交換で「AIの技術はより進化する。過去500年分の進歩を、この数年で達成するだろう」と話しました。
塩谷さんはAIの今後について、「人間の思考や内面に踏み込むように進化し、社会の維持に必要不可欠な存在になっていくのではないでしょうか」と予測します。
インタビューに答える塩谷直義監督=東京都武蔵野市で2023年6月1日、猪飼健史撮影
AIによって消えるもの
アニメの中ではこんな場面があります。
生徒は、殺人犯だった教諭の特徴を刑事から尋ねられたが答えられない。授業を受けているし、何度も顔を見ていたのに……。
塩谷さんが解説してくれました。
「刑事は生徒に話を聞いて犯人の似顔絵を作ろうとするんです。でも、誰も覚えてない。AIを用いて絵を描くことが当たり前になれば、効率化を優先して、美術の時間は他の授業に置き換わります。絵を描く経験をしていない生徒は、人間の顔を記憶する必要はないし、見たことを再現する方法も分からない。そうして、想像力をなくしていきます」
10年以上にわたるサイコパスの製作活動について、塩谷さんは「自分にないモノ、知らなかったモノを知ること。これが、すごく刺激になって面白かったんですよね」と振り返ってくれました。
AIを活用すれば、文書作成や画像生成などの作業時間を圧倒的に短縮できるようになります。塩谷さんは「とても便利だと思います」と前置きしたうえで、インタビューをこう締めくくってくれました。
「AIは0から1を生み出せません。考えて、想像する作業は時間がかかるけれど、とても大事。面白さを求め、考え続ける。これこそが、人が人らしく生きることにつながると思っています」