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毎日新聞2024/5/16 東京朝刊有料記事1009文字
9日にモスクワの赤の広場で開かれた対ドイツ戦勝記念日式典。ロシアのプーチン大統領は「戦略部隊は常に準備ができている」と核戦力を誇示した=9日、ロイター
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核兵器を使った脅しをロシアが加速させている。
ロシア国防省は6日、戦術核兵器の使用を想定した軍事演習を近く実施すると発表した。昨秋にロシアの戦術核の配備を終えたベラルーシも演習に参加する。
ロシアのプーチン大統領は2022年2月、ウクライナ侵攻の初日に「ロシアは核保有国の一つだ」と述べ、侵攻の邪魔立てをしないよう欧米諸国にクギを刺した。
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9日の対ドイツ戦勝記念日式典のパレードには、ロシアの大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ヤリス」も登場した=ロイター
その後も、ことあるごとに核兵器の使用をちらつかせる。9日の対ドイツ戦勝記念日の演説でも「戦略部隊は常に準備ができている」と、核戦力を誇示した。
米国と並ぶ核大国のロシアが、こうも頻繁に核兵器を脅し道具に使うのはいただけない。
ただ、今回は、フランス、英国両国の挑発的な発言が、核の脅しを招くきっかけだった。
フランスのマクロン大統領は2月、ウクライナに欧米諸国の地上部隊を派遣する可能性を「排除しない」と述べ、世界を驚かせた。
ウクライナへのフランス軍派兵を「排除しない」との考えを重ねて示すフランスのマクロン大統領=ロイター
米国やドイツなど多くの欧米諸国は、即座に「我が国は軍を派遣する考えはない」と否定した。
派兵すれば、ロシアとの全面戦争になり、下手をすれば第三次世界大戦となる可能性もある。そうした事態だけは絶対に避けたい、という強い思いがあるからだ。
だが、マクロン氏は4月末の英誌とのインタビューでも、ウクライナ派兵に含みを持たせた。
英国もロシアを刺激する点ではフランスに負けていない。キャメロン外相は2日、提供した武器の使い方は「ウクライナが決める」と述べた。英国が供与した長距離ミサイルを、ロシア領内への攻撃に使ってよいとも解釈できる。
2日にウクライナを訪問したキャメロン英外相。英国が供与した武器の使い方は「ウクライナが決める」と従来より踏み込んだ発言をした=ロイター
欧米諸国は、侵攻直後から武器・弾薬の供給を続けている。だが、ロシアを過度に刺激しないよう、これまではウクライナ国内での使用を義務づけてきた。
例えば、ちょうど1年前、欧米諸国がF16戦闘機の提供を決めた際のことだ。最後まで渋っていたバイデン米大統領は「ロシア領内への攻撃に『F16を使わない』との確約をウクライナから得た」としてゴーサインを出す。
ウクライナ派兵を口にしたり、欧米製武器でロシア領内を攻撃することを認めたりするのは、これまでの「不文律」を破ることになる。当然、ロシアは身構える。
ロシアには「通常兵器に勝る欧米に対抗するには、核を使うしか手がない」という考えがある。
核を使った危険なゲームにロシアが踏み込む「口実」を与えてはならない。英仏両国に強く自制を求めたい。(専門編集委員)