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毎日新聞 2023/7/6 05:00(最終更新 7/6 05:00) 727文字
マウス胎児の腹部の蛍光顕微鏡画像。体液の流れで中央から左側(図の右側、白丸の部分)にたんぱく質「ポリシスチン」が移動し集まっている=広川信隆・順天堂大特任教授提供
ヒトの心臓が一般的に体の左側、肝臓は右側にあるように、哺乳類の体はなぜ左右非対称なのか。その謎を解明したと、東京大と順天堂大のチームが5日付の米科学誌デベロップメンタル・セル(電子版)に発表した。心奇形などの病気の原因究明などに役立つ可能性があるという。
哺乳類は、たった1個の細胞(受精卵)が分裂を繰り返しながら、さまざまな細胞や臓器を作っていく。しかし、形成される臓器が左右で分かれる仕組みは未解明だった。
広川信隆・順天堂大特任教授(細胞生物学)らのチームは、マウスの受精卵を観察。胎児になり始めた約1週間後、「ノード」と呼ばれる腹部のくぼみにある繊毛が回転し、体液に左向きの流れを作り出していることを発見した。この流れが、受精卵の左側と右側で、たんぱく質の働き方の違いを生んでいるのではないかと考え、たんぱく質の様子がとらえられるよう発光させて追跡した。
その結果、この流れに乗ったたんぱく質「ポリシスチン」が別のたんぱく質と結合し、ノードの左側でカルシウム濃度が上昇することが分かった。カルシウム濃度は細胞の働きにさまざまな変化をもたらすことから、臓器が左右非対称に形成される原因と考えられるという。
左右非対称は、生命維持に重要な役割を果たしている。心奇形の患者は酸素を全身に送れないため、手術が必要になる場合がある。一部の臓器の配置が逆転した「カルタゲナー症候群」の患者は、各臓器の繊毛の動きが悪いことから異物を排出しにくく、肺炎などを起こしやすい。
広川特任教授は「発生生物学をめぐる長年の疑問に答えられたのではないか。今後、臓器の配置や構造の左右バランスが通常と異なることで起きる病気の原因解明に役立てたい」と話している。【田中泰義】