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毎日新聞2024/5/22 東京朝刊有料記事994文字
「サンキスト 100%オレンジ」(200ミリリットル)は原料がなくなり次第、販売休止となる。森永乳業は「6月中にも休止の見通し」としている=同社提供
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先週に続き、世界的な気候変動について語りたい。
気づいているだろうか? スーパーマーケットから、おなじみの商品が消えつつあることを。
オレンジジュースだ。世界最大の生産地、ブラジルで記録的な不作が続き、オレンジ果汁はいま、世界的な争奪戦の様相だ。
日本でも果汁不足が深刻化し、メーカーや飲食店は値上げや販売休止に追い込まれている。
中南米ではここ数年、各地で異常気象が頻発している。ブラジルを襲ったのは大雨だ。4月末以降も豪雨が続き、南部では大規模な洪水で少なくとも150人以上が犠牲になっている。
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さらに深刻なのは、こうした異変が地球規模で常態化している現実だ。地域それぞれの風土の中で育まれてきた農産物も壊滅的な被害にさらされている。
「気候変動がもたらすリスクへの対応は待ったなしの課題です。いまアクション(行動)を起こさないと大変なことになる」
来日したワールド・コーヒー・リサーチ(WCR)のロングCEO=東京都港区のキーコーヒー本社で2024年5月8日、赤間清広撮影
こう訴えるのは、国際研究機関「ワールド・コーヒー・リサーチ」(WCR)トップのロングCEO(最高経営責任者)だ。
コーヒーの産地は「コーヒーベルト」と呼ばれる赤道周辺に集中する。中でも生産量の約6割を占める「アラビカ種」は昼夜の寒暖差が激しい熱帯の高地を好む。
WCRが発表した将来予測は衝撃だった。地球温暖化などで気候変動が続けば、2050年にはアラビカ種を栽培できる地域が半減する恐れがあるという。当然、生産量も激減することになる。
「2050年問題」を回避することはできるのか。5月に来日したロング氏に質問をぶつけた。
「生産者はみな、強い危機感を持っています。でも、彼らだけでそれを解決することは難しいのです」。声が沈んだ。
コーヒーベルトの生産地の多くは世界でも最貧地域だ。気候変動や病気に強い品種を開発しようにも、必要な技術も資金もない。
コーヒーだけではない。先週のコラムで紹介したカカオなども同じ問題に直面している。
WCRの呼びかけで世界のコーヒー関連企業が協力し、アラビカ種の品種改良などが動き出した。間に合うかどうかは分からない。時間との闘いが続いている。
「生産者だけではなく、日本の消費者にも問題の深刻さを共有してほしい。それが重要です」
生産地任せの姿勢では気候変動の危機は乗り切れない。いつもの食卓を守るために、我々にできることは何か。その覚悟と行動が問われている。(専門記者)