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毎日新聞2024/6/4 東京朝刊874文字
2019年に開かれた天安門事件の犠牲者追悼集会。過去最多の18万人(主催社発表)が参加した=香港のビクトリア公園で2019年6月4日午後8時47分、福岡静哉撮影
民主化を求める学生らを中国当局が武力で制圧した天安門事件から4日で35年となった。
中国共産党と政府は事件を「政治的な騒ぎ」と呼び、真相の公表と賠償を求める遺族の思いに背を向け続けている。
とりわけ、国家の安全を最優先する習近平指導部は、一党支配体制を脅かす動きを封じ込める姿勢が顕著だ。監視システムの整備や治安維持関連の法改正を通じて統制の徹底を図っている。
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懸念されるのは、中国への返還後も6月4日に事件の追悼集会が開催されてきた香港で、締め付けを強化していることだ。
香港警察は5月下旬、元民主派団体幹部ら7人を国家安全条例違反の容疑で逮捕した。過去の追悼集会を紹介するフェイスブックへの書き込みなどが扇動に当たると判断したという。同条例違反による初の逮捕と地元紙は伝えた。
民主派団体は約30年にわたって追悼集会を主催してきたが、2020年に香港国家安全維持法が施行されると幹部が相次いで摘発され、翌年、解散に追い込まれた。
今回の逮捕について香港政府の鄧炳強(とうへいきょう)・保安局長は「近づく敏感な日を利用し、中央政府や香港政府への憎悪をあおった」と説明する。だが、言論や表現の自由への弾圧であり、看過できない。
中国本土では、天安門事件がメディアや教育で取り上げられることはなく、起きたことすら知らない若者も増えている。
当局が事件をタブー視する背景には、真相の究明や犠牲者の追悼が共産党への批判につながりかねないとの恐れがあるのだろう。
昨年秋には、6と4のゼッケンをつけ、抱き合った陸上女子の中国人選手の写真がネット上から削除された。事件を連想させると当局が判断したようだ。
しかし、人々の不満は覆い隠せない。強引な「ゼロコロナ」政策への抗議が各地で起きた一昨年の「白紙運動」はその証左と言える。最近では、自由を求めて国外に脱出する動きも目立つ。
強権統治によって批判を抑え込み、表面的な安定を繕えても、社会の閉塞(へいそく)感は深まるばかりだ。透明性や公正さを欠いたままでは、中国に対する国際社会の信用も得ることはできまい。