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毎日新聞2024/6/11 東京朝刊有料記事1024文字
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「いじめっ子に屈すると、さらなるいじめに遭う」
教育現場の話ではない。トランプ前米大統領を「いじめっ子」に例えたある政治家の発言だ。
2015年から約3年間、オーストラリアの首相を務めたマルコム・ターンブル氏が米誌フォーリン・アフェアーズに寄稿した論考(5月31日電子版)は、今年秋の米大統領選でトランプ氏が再選される場合(「もしトラ」)を想定した、いわば「取扱説明書」(トリセツ)のような内容だ。
ターンブル氏はビジネス界で成功し、弁護士や投資銀行の経営などを経て政党「自由党」を率い、首相となった。地球温暖化対策など「左寄り」政策が目立ち、保守派のトランプ氏とはいかにも対立しそうだが、彼から「敬意を勝ち取った」という。
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出会いは17年1月、トランプ氏が大統領に就任した直後の電話協議。移民案件で前任のオバマ大統領と合意した内容を踏襲するよう求めようとしたが、トランプ氏の側近から事前に「無理だから口にしないように」とクギをさされた。豪州への不法入国者は所定の手続きを踏めば米国に定住可能とし、その引き換えに豪州は米国が抱える「困難な移民案件」を引き受ける――。そんな約束だった。
ターンブル氏は電話協議で、臆せずこの案件を持ち出した。「ひどい取引だ」「私の政治的な命取りになる」と罵倒された。「動揺した」が、支配力の強い億万長者らとの取引を重ねてきた知恵を生かして食い下がった。その結果、最終的にはトランプ氏が折れて合意継続にいたったという。
いったいどんな知恵を使ったのか。まず各国の指導者がやってしまいがちな「へつらい」は禁物だという。「いじめ」、つまり過酷な要求がエスカレートし、「権力と気まぐれ」の支配を強めるのがオチ。トランプ氏から敬意とそれに伴うフェアな合意を勝ち取りたければ、まず「立ち向かうこと」が唯一最善の方策だとしている。
トランプ氏は官僚が作るシナリオを嫌い、各国の指導者と「その部屋、その場」での1対1の対決を好む。それは困難だがチャンスでもある。こちらの提示する条件が、「彼の利益にもなる」と説得できれば、トランプ氏に考えを変えさせることも可能だという。
自民党の麻生太郎副総裁は4月、トランプ氏が不正会計処理事件で連日裁判に出廷していた時期に面談した。「もしトラ」を視野に保険をかけたようにも見える。だがそれがトランプ氏の目に「へつらい」と映れば、逆効果にもなりうるのかもしれない。(専門記者)