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「食べ過ぎて、運動せんかった…」 そんなあなたに医師がお勧めする「毎日ちょこちょこ運動」
金子至寿佳・日本赤十字社 和歌山医療センター 糖尿病・内分泌内科部長
2025年1月28日
お正月からしばらくたちましたが、みなさん、無事に過ごせましたか。先月は診察の際、患者さんに「羽目を外さない程度に。おもちやおせち、そして運動不足に少しだけ気にしながらお過ごしください」とお伝えしました。多くの患者さんは、「正月も変わらないから大丈夫!」と自信たっぷり。「お祝いするというより、仕事が休みの日ぐらいに意識が変わってきたのかしら。結構ドライだなあ」と思ったものです。ところが、年が明けた今月の診察では……。
医師のいう「運動」に要注意
「やってしもたわ……」
「ずっと食べ続けて、運動も全然しなかった。やっぱりあかんわ」
「もちは食べへんかったで。でも他のものがあかんかった」
今月の診察では、先月の自信たっぷりの言葉とは逆に、多くの患者さんから正月の生活を反省される声が聞かれました。
しかし、今なら取り戻すことができます。この1カ月間は、運動療法を控えるように言われている方を除き、「毎日ちょこちょこ運動」をお勧めします。
この「ちょこちょこの運動」とは何だかわかりますか? 「運動」という言葉のとらえ方には注意が必要です。
身体活動も意義がある!!
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」には、
<「身体活動」とは、安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する、骨格筋の収縮を伴う全ての活動>
<「生活活動」とは、「身体活動」の一部で、日常生活における家事・労働・通勤・通学などに伴う活動>
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<「運動」とは、身体活動のうち、スポーツやフィットネスなどの健康・体力の維持・増進を目的として、計画的・定期的に実施されるものを指す>
と定義しています。
そして、健康づくりにおける身体活動・運動の意義として、
<身体活動・運動の量が多い者は、少ない者と比較して循環器病、2型糖尿病、がん、ロコモティブシンドローム、うつ病、認知症等の発症・罹患(りかん)リスクが低いことが報告されている>
と記載されています。
すなわち、医療者がいう「『運動』をしましょう」には、スポーツをしたり、フィットネスに行ったりするだけでなく、「『身体活動』の量を増やしましょう」という意味合いも含んでいるのです。「運動をしなければ」と気負ってしまい、自ら敷居を高くしないでください。そうお伝えしたいです。
食後の「ちょこちょこ」が効果的
私がお勧めする「毎日ちょこちょこの運動」は、全身の筋肉を使う毎日の「身体活動」のことです。なかなか「運動」のために時間やエネルギーを取ることができない方も多いことでしょう。敷居を下げて、「毎日ちょこちょこの運動」でも、十分効果はあります。
一つ注意をしてほしいのは、食事前でなく、食後に「ちょこちょこ運動」をする方が効果的です。
食べたものは食道と胃を通り、炭水化物は単糖類(ブドウ糖)に、たんぱく質はアミノ酸に、脂肪は脂肪酸とグリセロールにそれぞれ分解され、小腸に到達します。いわゆる「消化」です。
そして、単糖類と脂肪酸、グリセロールは小腸から血管に移動します。これが「吸収」です。血管の中に入ったブドウ糖、アミノ酸、そして脂肪酸は血流に乗って肝臓に流れ、肝臓の細胞内に入り、蓄えられたり、肝臓で作られるものの材料になったりします。
肝臓の細胞に取り込まれなかった分は、食べ始めから44~45分後に脂肪や筋肉の細胞に到達し、その後腎臓に流れ、余分なブドウ糖は尿に出ていきます。
口から入った食べ物は、このように全身をかけめぐりますが、お正月に飲酒の量が多かった方は、肝臓の細胞が壊れるために、流れ着いたブドウ糖も肝細胞の中に取り込まれることがなく、血液に残ったままなので、血糖値は高くなります。食べ過ぎると肝臓に中性脂肪としてため込んでしまいます。これも肝細胞逸脱酵素であるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)とアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が高くなる原因となります。
また、身体活動が少なかったり、運動をしなかったりした場合は、血液中から筋肉内にブドウ糖が流れ込まないため、血糖値も高くなってしまっています。
すでに食事は平常時のものに戻っていると思います。今ならまだ健全な調子に戻しやすいと考えます。身体活動や運動を再開し、筋肉を曲げたり伸ばしたりするのを増やすことで、体を整えていきましょう。時間が経過すると体も記憶してしまって、もとの健全な状態に戻しにくくなりますので、今がチャンスと思います。
コツは食べてから約45分後
運動のコツは、食べたものが消化、吸収され、筋肉に到達すること、すなわち食べてから44~45分後に行うことです。運動の時間は決して長いものでなく、10分~20分程度のものでいいです。内容は、決してジョギングや歩きに出るというものでなくても、朝食を食べた後、家の片づけや洗濯、昼食を食べた後お買い物で店の中をうろうろ歩けば、それは散歩と同じです。そして、夕食後は10分ほど体操をしてからゆっくり入浴をすれば、20分ほど歩くのと同じぐらいのエネルギーを消費できます。
他にも、庭いじりや、車を洗う、畑仕事なども効果的です。
足を痛めている方は座りながら、膝や腰、股関節に体重が掛からないようにしての運動も効果的です。運動をする=歩きに行く、では決してなく、楽しく、いつのまにか体を動かしていたなあ、と思えるようなものがちょうど良いです。
血液中のブドウ糖を細胞に押し込み、ブドウ糖の血中濃度(血糖)を下げてくれるホルモンはインスリンただ一つですが、血糖を上げるホルモンは五つもあります。がんばり過ぎたり、イヤイヤ体を動かしたりすると、これらがんばるためのホルモンや、ストレスがかかった時に出るホルモンの分泌も増え、血糖を上げてしまいかねません。
都市部では車生活が不自由で、電車や地下鉄など公共交通機関を利用することが多いことでしょう。いつの間にか1日平均30分は歩いていたという統計もあります。よりよく年齢を重ねる、ウェルビーイングのためにも、いや、お正月の運動不足を取り返すためにも、今日から毎日少しずつ、ちょこちょこ運動を始めてみませんか。
写真はゲッティ
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かねこ・しずか 三重県出身。医学博士。糖尿病医療に長く携わる。日本糖尿病学会がまとめた「第4次 対糖尿病5カ年計画」の作成委員も務めた。日本内科学会認定医及び内科専門医・指導医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・指導医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医、日本老年病学会認定老年病専門医・指導医。インスリンやインクレチン治療薬研究に関する論文を多数執筆。2010年ごろから、糖尿病診療のかたわら子どもへの健康教育の充実を目指す活動を始め、2015年からは小中学校で出前授業や大人向けの健康講座を展開している。