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毎日新聞2024/6/19 東京朝刊有料記事1007文字
西部劇映画の名作「マグニフィセント・セブン」。邦題は「荒野の七人」だ
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1960年製作の西部劇映画「荒野の七人」。原題の「マグニフィセント・セブン」は「壮大な7人」という意味になる。
原作となったのは黒沢明監督の名作「七人の侍」だ。舞台を西部開拓時代に、主人公を侍からガンマンに改変した「荒野の七人」も大ヒットし、続編やリメーク版が次々と作られた。
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「壮大な7社」の一つ、半導体大手エヌビディアのロゴ=米カリフォルニア州サンタクララの本社で2015年2月11日、ロイター
そして、現在。米国ではまたも「マグニフィセント・セブン」に注目が集まっている。今回の舞台は証券市場、主役は米国の株高をけん引する七つの巨大企業だ。
まずは「GAFA」。インターネット検索大手「グーグル」を運営するアルファベット、アップル、メタ(旧フェイスブック)、アマゾン・コムの4社を指す。
これにマイクロソフト、半導体大手エヌビディア、電気自動車(EV)大手テスラを加え、いつしか市場関係者の間で「壮大な7社」と呼ばれるようになった。
いずれもデジタルなど各国がしのぎを削る先端分野で世界的なシェアを握るガリバーである。
中でもエヌビディアは、いま話題の生成AI(人工知能)に欠かせない高性能半導体業界で圧倒的な存在感を示す期待の新星だ。
同社の株式の時価総額は2月に2兆ドル(約320兆円)を超え、それからわずか3カ月余りで3兆ドルの壁をも突き抜けた。
時価総額ランキングでトップ争いを続けるアップル、マイクロソフトの2強を脅かす勢いだ。
7社を祭り上げているのは投資家たちだ。米国のダウ工業株30種平均は5月に初めて4万ドル台に乗せた。7社はさしずめ巨額の利益をもたらしてくれる「カネのなる木」といったところだろう。
ただし、舞台は生き馬の目を抜く証券市場である。少しでも業績に陰りが見えれば、たちまち切り捨てられる厳しい世界だ。
我が世の春はいつまで続くのか――。これが市場の最大の関心事だが、7社の時代の終わりは案外、早く訪れるかもしれない。
独占的な地位を利用して巨額の利益をあげてきたGAFAなどのビジネスモデルは揺らいでいる。各国の規制当局による包囲網が着実に狭まっているためだ。
EV市場で先行していたテスラも中国メーカーとの激しい価格引き下げ競争に苦戦中だ。
7社が新たなビジネスの可能性を示した先駆者であることは間違いない。しかし、その圧倒的な資金力や技術力をかさに着た独善的な経営手法には批判も根強い。
「荒野の七人」で生き残ったのは3人だけだった。現代版の結末はいかに。(専門記者)