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毎日新聞2024/6/20 東京朝刊609文字
政治改革関連3法案が廃案になり、改革推進派の議員に頭を下げる海部俊樹首相=東京都千代田区の首相官邸で1991年10月1日
参院本会議で改正政治資金規正法が賛成多数で可決・成立し一礼する松本剛明総務相=国会内で2024年6月19日午前11時53分、平田明浩撮影
「予想もしない事態に遭遇してカッと頭に血が上った」。1989年のリクルート事件後の参院選で惨敗した自民党に担ぎ上げられた海部俊樹元首相が回想録に書いている。看板政策の政治改革関連法案が首相の了解もないまま廃案に追い込まれた▲就任から2年余り。党の政治改革大綱にも盛り込まれた小選挙区制導入案に党内の実力者たちが反対した。一度は「重大な決意」を示したものの、解散権も封じられて総裁選出馬を断念した▲「歴史は繰り返さないが韻を踏む」。そんな警句が思い浮かぶ。改正政治資金規正法が成立したものの多くの「抜け穴」が指摘される。「裏金」を許した不透明なカネの流れの一掃は難しいだろう▲当事者の国会議員しか改革を担えない矛盾が政治改革につきまとう「韻」である。「将来に禍根を残す改革はやってはいけない」という麻生太郎副総裁の発言が象徴的だ。痛みが少ないからこそ成立にこぎつけたのではないか▲監督のための「第三者機関」設置が盛り込まれたものの、権限ははっきりせず、予定どおりに設置できるかも疑わしい。大胆な改革を避けた岸田文雄首相の支持率回復は簡単ではない▲海部内閣が断念した小選挙区制の導入は自民党が下野した94年に実現した。海部氏はリクルート事件翌年の総選挙で自民党が勝利し、改革機運がしぼんだと振り返った。「国民から厳しい審判を受けていたなら、もう少しまじめに取り組まざるを得なかったはずだ」。現在にも通じる教訓に聞こえる。