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毎日新聞2024/6/20 東京朝刊有料記事1514文字
軍事面での協力強化にも踏み込んだ露朝首脳会談の意味と影響について専門家に聞いた。
侵攻長期化見据え 畔蒜(あびる)泰助・笹川平和財団上席研究員
プーチン大統領の今回の北朝鮮訪問の注目点の一つは、旧ソ連時代にあった「軍事同盟」に準じた2国間関係になるのかどうかだった。24年ぶりのプーチン氏の訪朝により、これまで以上に露朝の安全保障面での結びつきが強まったと言える。
ロシアのウクライナ侵攻が続く中、ロシアにとって北朝鮮による弾薬やミサイル供与が大きな助けになっている。ロシアは北朝鮮への技術支援を進め、相手の武器製造能力を取り込みたいと考えている可能性もある。
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プーチン氏は、侵攻の長期化を見据えているとみられる。6月中旬、侵攻の終結を目指す「世界平和サミット」がスイスで開かれる直前、プーチン氏は(ロシアが一方的に自国領への併合を宣言した)ウクライナ東・南部4州からのウクライナ側の撤退を求める演説も行った。
これは、ウクライナにとって到底受け入れられる内容でなく、交渉を始めようとする意思が感じられない。現在の戦況も考慮し、今後も戦争を続けていこうという考えの表れだろう。
訪朝直前、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」に掲載されたプーチン氏の寄稿文では、米国を強く意識した文章もあった。今後、北朝鮮と協力を深め、新たな世界秩序の形成に挑もうとする意思も感じる。
ロシアにとっての外交面での関心事は、西側との関係構築が困難な中、それ以外の国々との関係をどう発展させていくかだろう。ウクライナとの戦争を続ける限り、中国への依存が必然的に高まる一方で、プーチン氏としては「戦略的自律」を保ちたいとの思いも強いはずだ。今回、北朝鮮とベトナムを歴訪することで、中長期的にはアジアにおける独自の外交を築きたいという狙いも透けて見える。【聞き手・松本紫帆】
戦時の一時的関係 趙漢凡・韓国統一研究院先任研究委員
旧ソ連と北朝鮮が1961年に締結した友好協力相互援助条約では、一方で有事が起きた際に他方が軍事介入する規定があった。だがソ連崩壊で失効し、露朝は2000年にこうした条項がない友好善隣協力条約を結んだ。
19日の包括的戦略パートナーシップ条約についてプーチン大統領は、有事での「相互支援の規定」を盛り込んだと述べた。だが、かつての条約のような軍事介入の意味まで含むとは考えづらい。それは双方にとってリスクが大きいからだ。むしろ、技術支援や武器・砲弾の提供といった内容と考えるほうが自然だ。
ただ、想定していたより踏み込んだ内容になったことは確かだ。ウクライナ戦争が長期化する中で、ロシアとしては弾薬の供給元として北朝鮮が非常に重要となっているからだろう。
一方で、現在の露朝関係はウクライナ戦争が作り出した一時的なものに過ぎず、戦争が終われば状況が変わることに注意する必要がある。というのもロシアにとり北朝鮮は本来、さほど重要な国ではないからだ。
北朝鮮もその点は認識したうえで、この一時的な状況を利用している。北朝鮮は米国との対話は進まず、韓国との関係は最悪で、対中国もベストな状況とは言いがたい。こうした中で金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記にとっては、プーチン氏という大国のリーダーを自国に迎え入れること自体が、国内外で自身の権威を高めることにつながる。
正恩氏の目標は、米国が北朝鮮を核保有国として認めることだ。だが少なくとも米大統領選が終わるまで対米関係が動く見通しはない。正恩氏としては対露関係強化で外交的苦境を乗り越えつつ、米国との対話再開に向け、環境の変化を待っているのだろう。【聞き手・福岡静哉】