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毎日新聞 2023/9/20 16:26(最終更新 9/20 16:26) 985文字
気象庁=東京都港区虎ノ門3で、黒川晋史撮影
地球温暖化がさらに進んだ場合、国内の線状降水帯の年間発生回数はこれまでの約1・6倍になる可能性があるとの試算を、気象庁気象研究所などの研究チームが発表した。チームは「現在の気候では起こり得ないような回数の線状降水帯が発生する可能性がある」として、防災など温暖化の影響を軽減する「適応策」の重要性を指摘する。
気象庁によると、線状降水帯とは積乱雲が次々と発生して長さ50~300キロ程度、幅20~50キロ程度の帯状に並び、同じ場所で数時間にわたり強い雨を降らせる現象を指す。豪雨災害は線状降水帯の発生によってもたらされることが少なくない。
チームは1951~2010年を基準に、温暖化によって世界の平均気温が産業革命前より2度上昇した場合と、4度上昇した場合の線状降水帯の発生回数をスーパーコンピューターでシミュレーションした。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、世界で効果的な温室効果ガス排出削減策が取られなかった場合、今世紀末に約4度上昇すると見込まれている。
シミュレーションの結果、線状降水帯の発生回数はこれまでは年平均23回だったのに対し、2度上昇で31回、4度上昇で38回との結果になった。4度上昇では、多いときに60回以上も発生する年があった。チームによると、温暖化に伴って大気中の水蒸気量が増加することで、線状降水帯の発生を含めて大雨の頻度が増加すると考えられるという。
4度上昇の場合の発生回数を地域別に見ると、九州地方から関東地方にかけての太平洋側では発生頻度が増えた。また、基準とした過去60年間にはほとんど発生していなかった東北地方北部や北海道でも、頻度は少ないが発生するようになった。
線状降水帯のような狭い範囲にたくさんの雨をもたらす現象については、これまでのシミュレーションでは再現が難しかった。今回5キロ四方ごとに分析できる手法を開発し、線状降水帯発生回数を試算することができるようになったという。
チームは今後、開発した手法を使って洪水の発生頻度や規模の予測などにも取り組む予定で、同研究所気象予報研究部の渡辺俊一研究官は「研究成果を、防災対策や適応策の推進に役立てたい」と話す。
研究成果は米地球物理学連合の学術誌に掲載された(https://doi.org/10.1029/2023JD038513)。【山口智】