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毎日新聞2024/6/22 東京朝刊有料記事1011文字
<do-ki>
国会が終わった。言うべきことはあっても、言う気がしない。
政治資金パーティー裏金問題で明け暮れた半年間、派閥解消、国会での弁明、自民党議員の大量処分と続き、あげくが抜け穴法改正で閉幕。出来の悪い連続ドラマを見通してしまった気分だ。
大事な法案や条約はあった。子育て支援金制度や経済安全保障情報を扱う人の身辺調査制度の創設、次期戦闘機の日英伊共同開発、離婚後の共同親権、食料安全保障の基本法改正。裏金問題のせいで、議論も報道も足りない。
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国民は裏金に怒っているというが、本当か。物価高に苦しむ人々の陰で、株高などの恩恵にほくそ笑む人も実は少なくない。
新型コロナウイルス感染症対策の給付金を「長年働いてきたご褒美」と呼ぶ飲食店の老夫婦は、豪華客船クルーズを楽しんだ。黒ベンツを赤に買い替えた近所の老男性は、今日もゴルフバッグを積んで出かけて行く。
怒りは真剣な感情だ。今の世論は、むしろ自堕落な政治への愛想尽かしに見える。民主主義では、怒りより危険な態度である。
3年ぶりの党首討論は、衆院解散や総辞職を迫られる岸田文雄首相を、じっと見つめる与党席の冷ややかさが不気味だった。
与党議員も過半が、本音では辞めてほしいと願っているのではないか。でも言えないふがいなさ。そこに向けられる愛想尽かしは、批判より身にしみる。
居ても立ってもいられない政治家の集まり二つに注目している。「石橋湛山(たんざん)研究会」と「田中角栄研究会」。与野党有志議員が湛山会は約100人、角栄会には約50人参加し、なお増えそうだ。
湛山は昨年没後50年、今年生誕140年。角栄は昨年没後30年。
なぜ今、湛山と角栄か。それを研究中なので、答えはまだない。でも、党派を超えた議員たちが、この2人に引かれるのが面白い。似ていないようでいて、意外な共通点もありそうだ。
共に首相になったが、型破りの異端児。どちらも党を追われた経験を持つ(湛山は自由党時代、角栄は離党)。戦う政治家だった。
思想と行動の基盤に、自分の頭で考え、体得した独自の経済合理主義があった。結果、2人とも中国との関係を重視した。
湛山は冷戦期に「日中米ソ平和同盟」を説いて笑われた。角栄は国交正常化交渉の訪中直前、自宅療養中の湛山を訪ねてねぎらった。共に感無量だっただろう。
ロシアと北朝鮮が同盟を結んだ今、中国と話せる政治家が日本にいるだろうか。(専門編集委員)