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毎日新聞 2024/1/20 13:25(最終更新 1/20 17:43) 有料記事 970文字
SLIMの月面着陸成功を受け、会見するJAXA宇宙科学研究所の國中均所長(中央)と、藤本正樹副所長(左)。右はJAXAの山川宏理事長=相模原市中央区のJAXA相模原キャンパスで2024年1月20日、手塚耕一郎撮影
「ぎりぎり合格の60点」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「SLIM(スリム)」の月面着陸成功を受け、20日未明にあった記者会見で、JAXA宇宙科学研究所の国中均所長はそう評価した。歴史的快挙に100点満点近い評価をしても良さそうなものだが、果たしてその心は。
SLIMで月面着陸を目指すに当たり、JAXAは三つの成功基準を設定した。まず、最低限達成したい「ミニマムサクセス」に掲げたのは「小型軽量な探査機による月面着陸」。余計な部品をそぎ落とし、軽乗用車並みの大きさの文字通りスリムな機体は、月面到達後、地上と正常に交信を確立し、この基準をクリアした。
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次に、これを達成すれば完全に成功となる「フルサクセス」として「誤差100メートル以内のピンポイント着陸」を掲げた。SLIMの最も特徴的なミッションだ。
JAXAによると、この成否判定には約1カ月かかる。着陸時にSLIMが撮影した月面の画像データを受信し、月のどこに降り立ったか特定が必要なためだ。ただし、国中所長は会見で、着陸時の機体を追跡したデータが想定軌道とほぼ一致していたことから「個人的には実証できたと考えている」と自信を見せた。
探査機SLIM、三つの成功基準
ここまで達成できたのに「60点」とするのは、3番目の成功基準達成が疑わしいからだ。
JAXAは追加の「エキストラサクセス」として「日没までの一定期間、月面活動を継続」を掲げた。具体的には、ピンポイント着陸に関するデータを送った後、さらに、月の地下から露出したマントル由来の岩石を分析するミッションのことを指す。
ところが着陸後、太陽電池が発電できなかった。太陽光パネルが地面側を向くなど、予定と違った姿勢で着地した可能性がある。その結果、バッテリーが尽きるまでの数時間、着陸データの伝送を優先せざるを得なかった。今後、太陽の向きが変わりパネルに光が当たれば、太陽電池が復活し、岩石探査ができる可能性がないわけではない。国中所長は「(日没を挟んでも太陽光を受けると活動を再開する)月の夜を越える挑戦もプログラムに想定してあるので期待したい」と述べた。
SLIMミッションは、探査機のエンジニアだけでなく、月誕生の謎を追う研究者などさまざまな関係者の期待を背負う。それだけに「所長として辛口のコメントになるが60点」となった。【阿部周一】