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毎日新聞 2024/1/21 12:00(最終更新 1/21 12:00) 1112文字
海外でも知名度が高い「パウダースノー」を求め、多くのインバウンドが訪れるニセコ東急グラン・ヒラフスキー場=北海道倶知安町で2024年1月18日午後1時7分、真貝恒平撮影
国内屈指の「パウダースノー」が楽しめる北海道ニセコ地域で、雪資源を生かした「積雪発電」の実証実験が進められている。ニセコの雪は世界的にも知名度が高いが、近年、地球温暖化による雪質の変化が懸念されるようになってきた。脱炭素に向け、環境への意識が高いインバウンド(訪日外国人)が数多く訪れるスノーリゾートからの発信は注目を集めそうだ。
JR倶知安駅からバスに乗り、ニセコ東急グラン・ヒラフスキー場(倶知安町)に向かう。バス停からはスキーを楽しむ多くの外国人客も乗り込む。スキー場に到着し、振り返ると、美しいシルエットの羊蹄山(標高1898メートル)がそびえていた。
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スキー場内の実験設備。格納庫内のエンジンで発電する=北海道倶知安町で2024年1月18日午後0時1分、真貝恒平撮影
スキー場を運営する東急不動産(東京)は昨年12月、雪とバイオマス燃焼の温度差を利用して発電する「積雪発電」の実証実験をスキー場内で始めた。発電技術は、スタートアップの「フォルテ」(青森市)と電気通信大(東京都)が2022年から開発に取り組んでいる。
発電にはスキー場に積もる雪で冷やした不凍液と道産木材チップの燃焼熱を利用。発電機に搭載されたエンジンのシリンダー内で、ヘリウムを低温の不凍液で圧縮する力と燃焼熱で逆に膨張する力が働き、コイル内の磁石をピストン運動させることで発電する。これまでの実験では、最大1200ワットの発電に成功。この水準を維持すれば、発電量は標準世帯(30アンペア、月230キロワット時)の約4世帯分に相当する。
18日に行われた報道公開では、電気通信大の榎木光治准教授(機械知能システム工学)が実際に発電機を稼働。起こした電気は駐車場などの融雪に活用することも検討しているといい、電流が通ったアルミ板に載せた雪の塊を溶かす様子も実演した。
積雪発電により熱を帯びたアルミ板上に雪の塊をのせて説明する電気通信大の榎木光治准教授=北海道倶知安町で2024年1月18日午後0時37分、真貝恒平撮影
同社は、運営する同スキー場を含めた国内7カ所のスキー場で、リフト、ゴンドラ、ナイター照明などの設備で消費する電力を太陽光や風力に由来する再生可能エネルギーに切り替えた。全体では一般家庭約4000世帯分の年間約8000トンの二酸化炭素(CO2)排出量が削減できるという。
同社が脱炭素に向けた取り組みに力を入れる背景にあるのは地球温暖化だ。このまま気温が上昇すると、海外でも定評のあるパウダースノーの維持に大きく影響する。さらには、環境対策に関心が高いインバウンドにも選ばれる地域になりたいという思いもある。
実証実験は今月で終了する予定で、今後は本格的な導入に向け、スキー場内の道路や駐車場、屋根の融雪などを検討する。同社の担当者は「実証実験の結果がどのような結果を生むかは未知数な部分もあるが、スキー場が化石燃料を使わない脱炭素を掲げることは、強いメッセージになる」と話している。【真貝恒平】