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毎日新聞2024/7/7 東京朝刊625文字
東京都高野連に加盟した都立青鳥特別支援学校の選手たち。今年は単独チームとして西東京大会に初出場する=横浜市港北区で2023年7月1日午前11時29分、田中綾乃撮影
「遥(はる)かなる甲子園」(戸部良也著)は、映画にもなったノンフィクション作品だ。聴覚に障害のある沖縄県立北城ろう学校の生徒が自ら野球部を作り、1982年と83年夏の沖縄大会に出場する。同書には「聴こえぬ球音に賭けた16人」のサブタイトルが付いた▲選手らが生まれる前年に米国で風疹が流行し、米軍基地のある沖縄にも広まった。妊婦たちも感染し、耳の不自由な子どもが多く生まれた。ろう学校の設立にはそんな背景があった▲「硬式野球は危ない」と周囲は心配した。だが、選手たちは練習を重ねてハンディを克服し、県高校野球連盟に正式加盟を果たす。大会では勝利に届かなかったが、野球を通じて得た経験は大きかった▲当時、チームを率いた大庭猛義監督は「普通教育と障害児教育を機械的に切り離しては、真の人間教育ができない」と述べ、障害の有無を超えて学ぶ「共同教育」の大切さを説いていた。今でいう「インクルーシブ教育」だ▲全国高校野球選手権の地方大会が今週末から本格化する。西東京大会には、知的障害のある生徒が通う都立青鳥(せいちょう)特別支援学校が単独チームとして初出場する。都高野連に加盟した昨年は部員不足で他の2校と連合チームを組んだ。今年は新たに仲間が加わり、部員は12人に増えた▲白子悠樹主将は「単独で出場できることがうれしい。ヒットを打ちたい。1勝するために、一生懸命頑張りたい」と言葉に力を込める。「遥かなる甲子園」へつながる一戦に、熱い思いをぶつけてほしい。