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毎日新聞2024/7/7 東京朝刊833文字
東京五輪・パラリンピックのために全面改築された国立競技場。来年4月からは民間事業者が運営に当たる=東京都新宿区の国立競技場で2022年7月5日午前11時45分
東京オリンピック・パラリンピック開催のために、総額1569億円もの巨費を投じて整備されたスタジアムである。民営化を機に有効活用する方策を考えていかなければならない。
2019年に全面改築された国立競技場だ。国が施設を保有しながら、民間事業者が運営に当たる「コンセッション方式」が採用され、NTTドコモを代表とするグループに運営権が売却される方向となった。
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グループはサッカーのJリーグを含む4者で構成され、運営権の対価として、30年間で528億円を提案した。近く契約を結び、来年4月から運営を開始する。
完成時から東京大会後の運営権売却が計画されていたが、引き受ける事業者がなかなか現れず、民営化は暗礁に乗り上げていた。
5月に国立競技場で行われた陸上のセイコー・ゴールデングランプリ。競技場を球技専用に改修する案は撤回され、来年は世界陸上選手権が開催される=国立競技場で2024年5月19日、中川祐一撮影
問題となったのは陸上トラックの扱いだった。当初は大会後にトラックを取り払って観客席を増築し、サッカーやラグビーなどの球技専用にする予定だった。
しかし、収益性の高いコンサートを開催するには、機材搬入のためにトラックを残す必要があり、結局、球技専用案は撤回された。来年には陸上の世界選手権も開催される。
民営化にあたり、国は年間10億円を上限に費用負担する方針を示していた。
だが、NTTドコモなどのグループは国に負担を求めず、コンサートの開催回数を増やしたり、競技場の命名権を売却したりして収益を確保する方針だ。現在は6万8000人収容だが、仮設席を加えて8万人に増やす計画もある。
独自の遮音技術や次世代型の高速大容量通信の活用も検討しているという。従来型のスポーツ大会やコンサートだけでなく、新しい時代に即したイベントの開催が求められる。
コロナ禍では、オンラインでスポーツや音楽を楽しむスタイルが普及した。一方で現場の感動や熱狂を求める人々も増えている。今後はバーチャルとリアルの融合も進むことだろう。
これまでは立派なスタジアムを生かしきれていなかった。民間ならではの柔軟な発想や工夫によって、市民が魅力を感じる施設にしてもらいたい。