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毎日新聞2024/7/11 東京朝刊623文字
潜水手当の不正受給疑惑などについて記者会見する酒井良海上幕僚長=防衛省で2024年7月9日午後1時50分、三浦研吾撮影
海上自衛隊のヘリコプター2機が墜落した伊豆諸島の鳥島東方海域で捜索にあたる海自の護衛艦=2024年4月22日午前11時、本社機「希望」から
「悪い事は重なる」という意味のことわざは世界各地にある。日本では「泣きっ面に蜂」や「弱り目にたたり目」。中国は「雪(せつ)上(じょう)加霜(かそう)」。欧米には「降れば土砂降り」や「不幸は単独では来ない」が伝わる▲人類が長い歴史で学んだある種の経験則なのだろう。運不運だけでなく、悪い事象が続く背景に共通の原因が潜んでいることも多いのではないか。そうでなければ、誰もがうなずく人生訓にはなるまい▲不祥事が続く組織にはその土壌がある。例えば、法令順守より組織の論理を優先し、異論を許さない。強いストレスで冷静な判断ができない……。運が悪いとだけ考えてはさらに蜂に狙われる▲創設72年の海上自衛隊もその一つか。潜水艦乗組員への企業の裏金接待や潜水手当の不正受給疑惑が相次いで表面化した。「特定秘密」の違法運用も確認され、海自トップの更迭が取り沙汰されている▲中国の海洋進出が続き、組織全体が強い緊張状態にあることは容易に想像できる。人手不足も深刻だ。4月に訓練中の海自のヘリコプター2機が衝突した事故は指揮官の連携不足など人為ミスが原因という。そこに不祥事が続出しては国民も不安になる▲「伝統墨守、唯我独尊」は海自の特徴を表す隠語という。旧海軍の伝統を継ぐ意識が強いらしい。「やってみせ 言って聞かせて させてみせ ほめてやらねば 人は動かじ」は山本五十六元帥の名言とされる人心掌握術だ。不正根絶に向けた成果を示せなければ「やってみせ」とは程遠い。