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毎日新聞2024/7/11 東京朝刊848文字
就任後初の記者会見に臨むスターマー英首相=ロンドンで2024年7月6日、ロイター
英国の新政権には、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)後の混乱と経済の低迷に終止符を打つことが求められる。
英下院総選挙でスターマー党首率いる野党・労働党が地滑り的な勝利を収め、14年ぶりの政権交代を果たした。
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一方、与党・保守党は現職閣僚ら有力議員が相次いで落選し、歴史的な大敗を喫した。敗因は、政権運営に対する国民の怒りだ。
保守党はEU離脱を掲げた2019年の前回選挙で圧勝した。離脱で経済も暮らしも良くなると約束し、国民の支持を取り付けた。
しかし20年の離脱完了後、通関手続きの煩雑化や東欧からの労働者の減少による人手不足が、物価を押し上げた。ロシアによるウクライナ侵攻を受けたインフレも家計を圧迫した。
EUへの拠出金を、財政難の公的医療サービスに回せるとも主張していた。しかし、長年の緊縮財政による医療スタッフや病床の逼迫(ひっぱく)は解消されず、手術を必要とする患者が長期間待たされるなど深刻な状況は続く。
政権の不祥事も相次いだ。ジョンソン元首相は新型コロナウイルス対策規制を破ってパーティーに参加し、辞任に追い込まれた。次のトラス元首相は、財源の裏付けのない大規模減税策で市場の混乱を招き、わずか50日で辞任した。
労働党の勝因は、コービン前党首時代の急進左派路線を修正したことだ。法人増税を撤回して経済重視の姿勢を打ち出すなど中道色を強めた結果、保守党支持層にも食い込んだ。
スターマー新首相にとって喫緊の課題は経済の立て直しだ。財政出動を求める党内左派の反発を抑え、有効な経済政策を提示できるかがカギとなる。重要な貿易相手であるEUとの関係修復も欠かせない。
英国を揺るがす移民問題への対応も迫られる。今回の選挙では、移民の受け入れ制限を掲げた右派ポピュリスト政党「リフォームUK」が一定の支持を得た。
米大統領選で自国第一主義のトランプ政権が誕生すれば、ウクライナ支援などに影響が出る。米欧をつなぐ英国には、内政の混乱を抑え、国際社会の安定に貢献する役割が期待される。