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毎日新聞2024/7/11 東京朝刊有料記事1017文字
中東では装飾品としての金が根強い人気を誇る。アフリカ産の金も、中東諸国に流れ込んでいる=サウジアラビアのジェッダで。2003年4月、会川晴之撮影
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サヘル地域で最初に金鉱脈が見つかったスーダン。2023年4月から内戦が始まり、首都ハルツームも空爆された。双方の勢力は産出した金をもとに、武器や弾薬を買う動きを続けている=23年5月、ロイター
紛争当事者の資金源になるとして、厳しい取引規制がある「紛争ダイヤモンド」。レオナルド・ディカプリオさんが主演し、2006年に公開された米映画「ブラッド(血塗られた)・ダイヤモンド」で扱われたことで、広く知られるようになった。
映画の舞台となったのは、西アフリカのシエラレオネ。強制労働など人権無視の状況下で掘ったダイヤモンドを、武装勢力が売りさばき、それで得た資金で武器や弾薬を手に入れる構図が続いた。
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サヘル地域西部の金産出国では2020年以後、軍事クーデターが相次ぐ。マリ、ニジェール、ブルキナファソの3カ国は新たに連合を組み、協力関係を築くが、政情や治安は不安定化している。ニジェールの首都ニアメーで開かれた初の3カ国サミットに参加した首脳たち=7月6日、ロイター
国際的な取り組み強化もあり、紛争ダイヤモンドの取引は激減している。だが、アフリカでは「血塗られた金」とも言える新たな問題が生じている。
きっかけは12年から始まったゴールドラッシュだ。サハラ砂漠の南縁にあるサヘル地域で次々と金鉱脈が見つかった。
プリゴジン氏が率いたロシアの民間軍事会社「ワグネル」は、アフリカにも進出。金鉱山などの利権を握った=2022年12月、AP
最初は、サヘル地域東端に位置するスーダンだった。国内外から一獲千金を目指す人が殺到、その数は10万人に達した。15年には、金の採掘に100万人が従事し、金の恩恵を受ける人の数は400万人に達した。金は輸出額の7割を占める主要産業へと育った。
だがスーダンでは昨年4月、内乱が勃発する。政府や対立勢力は金を売りドローンなどの武器や弾薬を手に入れる。「紛争ダイヤモンド」と同じ構図が出現した。
スーダンに続き、マリ、ブルキナファソ、ニジェールなどサヘル西部の諸国でも金鉱脈が見つかる。その利権を狙い国際テロ組織「アルカイダ」や、過激派組織「イスラム国」(IS)が入り込む。政府軍も立ち入れない無法地帯が、次々と生まれていく。
政情不安につけ込むようにロシアの民間軍事会社「ワグネル」も進出する。中央アフリカでは18年以降、ワグネルが政府を支え始める。用心棒代として得たのは、同国最大の金鉱の鉱業権だった。
ワグネルは、他のアフリカ諸国でも金の利権をあさる。スーダンでは主要な金精錬所を傘下に収め、精錬された金を軍用機でロシアに運ぶ。ウクライナ侵攻を始めた22年以降、ロシアがアフリカから持ち出した金の総額は25億ドル(約4000億円)に達する。
金の高騰が続く。円安もあり、国内の小売価格は連日のように史上最高値を更新、8日には1グラム=1万3605円をつけた。ウクライナやパレスチナの戦争や、インフレ懸念、中国やインドの「爆買い」なども背景にある。
値上がりが続く金の裏には、強制されて働く労働者や、紛争で苦しむ人々がいる。それを忘れてはいけない。(専門編集委員)