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毎日新聞2024/3/28 10:01(最終更新 3/28 10:01)有料記事2139文字
農業用ため池を活用した水上太陽光発電所=大阪府泉佐野市で2023年6月27日午後2時26分、斉藤朋恵撮影
再生可能エネルギー拡大に向け、アジアを中心に太陽光パネルの設置場所として注目を集めるのがため池などの「水面」だ。土地を造成する必要がなく、パネルの下の水による冷却効果で陸上設置型よりも発電効率がいいというメリットもある。
世界で急拡大する水上太陽光発電。世界初の事例は、実は愛知県内の調整池だった。
貯水池などに太陽光パネルを浮かべる「水上太陽光発電所」が世界で急増しています。陸上設置型と比べた利点が注目され、各国で大規模施設の建設が相次いでいますが、実は「発祥の地」は日本。国内外の最新動向を取材しました。
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商業用「世界初」は埼玉県内の調整池
世界銀行とシンガポール国立大の報告書によると、水の安定供給などを担う独立行政法人「水資源機構」が2007年に愛知県内で実証試験を始めた。環境省の技術開発事業の一環で、同機構は「陸上設置と同等以上の発電量が期待できることを確認した」と報告している。
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13年、埼玉県桶川市にある工業団地の調整池に0・12万キロワット(1・2メガワット)の水上太陽光発電所が完成。パネルを浮かせるフロートを開発した仏シエル・テールの日本法人によると、商業用メガソーラーとしては世界初だった。日本国内では、12年の再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)開始以降、「太陽光バブル」の中で水上に設置する事例も増えていった。
全国に15万カ所以上あるとされる農業用ため池も次々と「発電所」になった。ため池を管理する地元の農業団体などにとっては、水面使用料が入ってくるというメリットもある。
太陽光発電のコンサルタント会社「資源総合システム」の推計では、国内での水上太陽光の累積導入量は13年の0・1万キロワットから22年末には67万キロワットに拡大。だが、当初の導入スピードはFITの買い取り価格引き下げに伴って失速した。
台風で大規模事故、導入失速に追い打ち
台風15号の際、山倉ダム(千葉県市原市)の水上太陽光発電所で大規模な事故が発生した=同市で2019年9月9日午後2時51分、本社ヘリから玉城達郎撮影
失速の動きに追い打ちをかけたのが19年9月、関東地方に上陸した台風15号による大規模事故だ。山倉ダム(千葉県市原市)に浮かべられた太陽光パネル約5万枚のうち、約8割が強風で押し流されて破損。一部が折り重なってショートし、火災が発生した。
強風による破損事故は他にも数件あったが、山倉ダムほどの被害は初めてだった。水上太陽光の建設に携わる関係者は「ため池や調節池の所有者や自治体が、安全性への懸念から導入に慎重になった」と振り返る。
経済産業省の専門家会議による検証を踏まえ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は21年11月、パネルの「島」の形を風の影響が偏りにくい単純な長方形にするなど設計・施工の指針を公表。山倉ダムもパネルを配置し直すなどして復旧した。
政府、再生エネ拡大で「水上」推進
日本の水上太陽光の導入状況(設備容量)
政府は30年度に再生可能エネルギーを電源の36~38%に増やし、うち太陽光で14~16%まかなうことを目指している。太陽光の適地が少なくなる中、パネルの下で農作物を育てる営農型太陽光発電や屋根への設置などと並び、水上設置を推進しており、環境省や経産省は20年度以降、新規導入時の設備費用などを助成する補助金を設けている。
こうした中、ここ数年は復調しつつあり、資源総合システムは30年までに約220万~470万キロワットに達すると予測している。
23年6月には大阪府泉佐野市が所有する農業用ため池で、発電出力0・28万キロワット(2・8メガワット)の水上太陽光発電所が稼働を開始。設置した三井住友建設の担当者は「補助金制度が始まってから、再び引き合いが増えている」と話す。
日本でも水上は「有力な選択肢」
東京湾では4月以降、同社や東急不動産が国内初の海上太陽光発電の実証試験を始める。三井住友建設は波への耐久性などを検証し、将来的には瀬戸内海や東京湾といった内海での実用化を目指すという。
ため池に整備された水上太陽光発電所=高松市で2018年11月16日午後1時6分、植松晃一撮影
自然エネルギー財団の大林ミカ事業局長は「気候危機への対処には、緊急性が最も重要だ。世界で22年に新たに導入された発電設備の約8割は太陽光と風力で、停滞している日本でも拡大する必要がある。太陽光については建物の屋根や農地への設置とともに、水上設置も有力な選択肢の一つだ」と話す。
同財団が23年4月にまとめた提言書では、国内の太陽光発電の累積設備容量は21年度末の約79ギガワットから35年度末に約3・5倍の約280ギガワットに拡大可能と試算。このうち約半分は建物の屋根や壁への設置が占め、水上設置は1割以下と見込むものの「着実な普及が期待される」とした。
水質・生態系への影響は未解明
一方、水面をパネルが覆うことによる水質や生態系への影響については分かっていないことが多い。政府は出力4万キロワット(40メガワット)以上のメガソーラーを新設する際には、環境影響評価(アセスメント)を義務付けているが、国内にはこの規模の水上太陽光はない。
また、水質の監視なども事業者の自主性に委ねられている。大林さんは「発電所開発にあたっては継続的に(環境への影響について)調査をし、結果を公開していく必要がある」と指摘する。【岡田英、三股智子】