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毎日新聞2024/7/14 東京朝刊829文字
旧統一教会への損害賠償訴訟で最高裁判決を受け、記者会見する原告(手前)=東京都千代田区で2024年7月11日午後4時41分、手塚耕一郎撮影
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への高額献金の実態を踏まえ、被害の救済に道を開く司法判断である。
1億円以上を献金した女性の遺族が賠償を求めた裁判で、教団側の勝訴とした1、2審の判断を覆す判決を最高裁が出した。審理は高裁に差し戻された。
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教団への献金問題に、最高裁が判断を示すのは初めてだ。
最高裁で有効性が争われた念書の写し=春増翔太撮影
焦点となったのは、女性が「賠償請求を一切しない」と教団に約束した念書の存在だ。これを根拠に1、2審は訴えを退けていた。
判決は念書の有効性について、憲法で保障された「裁判を受ける権利」を制約するものであり、慎重に判断すべきだと指摘した。
女性は当時高齢で、教団の「心理的影響下」にあり、冷静に判断することは困難だったと認定した。そのような状況で作られた念書は「公序良俗に反し、無効」と結論づけた。
文案を用意するなど、教団側が念書の作成を主導していた経緯も踏まえれば、当然の判断だ。
多額の献金をした後、同様の文書を教団側に渡している例は他にも確認されている。今回の判決によって、泣き寝入りを余儀なくされていた人が、救済される可能性が出てきた。
最高裁は、宗教団体が献金を求める行為に関し、違法性を判断する際の考え方も示した。
献金する人の意思が尊重されているか、その人の生活に支障がないかなどを多角的に検討し、社会通念に反していれば違法とする。
女性のケースでは、土地を売るなどしてまで献金を続けたことについて「異例」と言及した。差し戻し審では、教団の組織的な関与の有無も争われる。
旧統一教会への高額献金は、2年前の安倍晋三元首相の銃撃事件で社会問題化し、寄付の行き過ぎた働きかけを規制する「不当寄付勧誘防止法」が制定された。
不安をあおるなどして団体が寄付を募ることを禁じ、寄付者の自由な意思を妨げないよう配慮することなどが規定された。
判決は、この法律の精神に沿ったものでもある。
教団は判決の趣旨を重く受け止め、被害者の訴えに耳を傾けなければならない。
※ 念書
念書とは?
念書(ねんしょ)は、ある約束事に関する文書であって、一方の当事者のみが作成して他方の当事者に差し入れる文書のことです。
法的効力、作成される場面について以下で説明します。
念書の法的効力
「念書」は「契約書」と区別して使われることも多いですが、期待する法的効力は同じです。どちらも「約束した内容について証明をする文書」だからです。
ただ、念書の場合は作成した一方当事者の署名しか記載されず、一方的に交付されるのが通常です。そもそも口約束でも契約の効力は生じることを考えれば、この場合でも約束した内容が無効になるとはいえません。しかし、署名や押印を付していないことを理由に、他方当事者は「一方的に送り付けられただけで、約束はしていない」という主張をしやすくなります。
そのため、契約書に比べると念書に記載された内容が受領者側に反故にされる可能性は高くなるともいえるでしょう。
念書を作成するケース
念書は一方当事者のみが作成する文書であり、送られた側の当事者がなかったことにしやすいという性質上、作成者側にとって不利な内容を示すケースで利用されることが多いです。
債務の存在について念書を使って承認してもらい、消滅時効の中断をしたいという場面を考えてみましょう。債務者側が「金〇〇万円の債務は存在する」旨を記載した念書を債権者に送った場合、債権者側がこれをなかったことにするメリットはありませんし、債務者側は署名押印をしているためなかったことにするのは困難です。
従業員に始末書を書かせる場面、誓約をしてもらう場面などでも使われます。従業員が「退職後、〇〇はしません」などと書き記した文書について、わざわざ会社側も同意の意を示す必要はなく、作成者である従業員側の署名押印があれば十分なのです。
取引関係にある企業間においても同様です。一方の意思表示のみで足りるケースで念書は使われます。
覚書や契約書との違い
念書と似た文書に「覚書」と「契約書」があります。これらの文書について、念書との違いを整理しておきましょう。
覚書との違い
「覚書(おぼえがき)」は、ある物事について忘れることのないよう、書き残しておくために作成する文書です。
双方で話し合った内容を取りまとめ、契約書を補完する形で機能します。両当事者が署名押印をしているなど、効力に着目すれば契約書の一部として捉えることも可能で、単なるメモと同列に扱うことはできません。メモよりも高い厳格さを備えています。
覚書に関してはこちらのページで詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
契約書との違い
「契約書」は、当事者間で契約を交わす時に用いられる文書です。取引金額、各種条件などが書き記され、全当事者の署名・押印が付されます。
広義には覚書も念書も契約書と捉えることは可能ですが、これらを区別する場合、「契約書」はもっとも厳格さを持った文書であるといえるでしょう。念書のように一方当事者だけが署名押印するということは通常ありません。双方が署名押印し、どちらからも約束をなかったことにするのが困難な状態とするのです。
また、契約書の場合は取引の始まりに交わされることが多いのも、念書との違いといえます。