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毎日新聞2024/7/17 東京朝刊有料記事954文字
さまざまな商品が並ぶ英ロンドンのスーパーマーケット。各国で日本食の取り扱いも急増中だ=2024年2月21日、ロイター
<sui-setsu>
外国を訪ねる際、楽しみにしていることがある。地元のスーパーマーケット巡りだ。棚に並んだ食材や店内を行き交う人々を眺めていると、その国の生活のにおいが感じられる気がするからだ。
そんな海外スーパーで最近、目に見えて増えているものがある。日本食だ。
新型のコンパクトな寿司ロボットを紹介する鈴茂器工の谷口徹副社長=東京都江東区で2024年6月7日、赤間清広撮影
保存がきく加工品だけではなく、生の食材を使ったすしなどの販売も珍しくなくなった。
世界的な健康ブームの影響もあり、「おいしくて、ヘルシー」というイメージが強い日本食には追い風が吹いている。
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機を見るに敏な外食企業の海外展開も加速中だ。日本食が世界に飛躍している証拠だろう。
のり巻きを作る鈴茂器工の機械も海外で大人気だ=東京都江東区で2024年6月7日、赤間清広撮影
ブームを陰で支える立役者がいる。東京・中野に本社を置く鈴茂(すずも)器工もその一社だ。
大半の読者は社名を聞いてもピンとこないかもしれない。だが、同社が生み出す「味」にはなじみが深いはずだ。
元々は和菓子の製造機械メーカーだった。躍進のきっかけは、創業者の鈴木喜作氏の怒りだった。
政府の減反政策に反発し、「米の消費を伸ばしてやろう」と研究に没頭した。
苦心の末、1981年に開発したのが、自動でシャリを握る世界初の「寿司(すし)ロボット」だ。
1時間に1200貫ものシャリを作る能力は、職人技に頼っていた業界を一変させた。
回転ずしが全国に普及する原動力となり、ちょっとハードルが高かったすしの大衆化を実現した。
最新の寿司ロボットの生産能力は1時間に4800貫。初代の4倍にまで向上した。
だが、同社の谷口徹副社長は「量や速さをいくら追い求めても、それだけで機械は売れません」と言い切る。
大事なのは味と食感。職人が握ったものと遜色ない水準が再現できなければ評価されない。ここにこだわり続けてきた。
「日本の消費者の厳しい目に鍛えられてきた。味には絶対の自信があります」
寿司ロボットの国内シェアは8割を超える。海外でのすし人気もあり、ここ数年、外国からの引き合いが急増中だ。
食品製造機械はあくまで裏方の存在だ。消費者が直接、目にする機会はほとんどない。
だが、鈴茂器工のように海外でも高いシェアを握る「隠れた巨人」が続々と生まれている。
日本の消費者を満足させてきた精鋭が海を渡り、本場の味を提供する――。根強い日本食人気の一端がここにある。(専門記者)