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毎日新聞2024/7/19 06:00(最終更新 7/19 06:00)有料記事1861文字
「日韓青年パートナーシップ」の第10回イベントで、真剣な表情で議論する日韓の学生=ソウル市のソウルユースホステルで2024年7月15日、堀山明子撮影
討論会は日本語と韓国語のちゃんぽん。司会者はバイリンガル。2020年にソウルで始まった学生交流団体「日韓青年パートナーシップ」の延べ参加者が1000人を超えたと聞き、2泊3日の7月合宿をのぞいてみた。
大人たちが議論を避けがちな領有権や歴史問題まで切り込んでいるが、険悪なムードはない。論点は「日韓どちらが正しいか」ではなく、「共存するために何をすべきか」と前向きな姿勢がぶれないからだ。新型コロナウイルス禍の後、学生交流は、タブーを設けずに向き合う「ガチ討論」の流れが生まれているように見える。
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友達になるための対話
7月13~15日にソウルで開かれたイベントが10回目。日韓学生交流事業は政府や財界の助成を受ける団体が複数あるが、ここは「資金も企画も自前。しがらみがないのが特徴」(実行委員会)という。
会場には、体操着をおしゃれに改造したようなK-POP風ファッションの若者が集っていた。参加者は日韓21人ずつ。6班(政治外交、社会、経済、歴史、在日、未来)に分かれて議論し、最後に主要論点を全体でも共有する。
相手国言語を聞き取れる参加者がほとんどなので、発言はどちらの言語でもOK。難しい話の時に通訳担当が助け舟を出すものの、逐次通訳をするわけではない。「まじ?」「チンチャ(本当)」。驚きの叫び声は、自然と母国語でそのまま飛び交っていた。
「日韓青年パートナーシップ」の第10回イベントで、議論を後ろに立って見守る実行委員長の林知佳さん(右上)=ソウル市のソウルユースホステルで2024年7月15日、堀山明子撮影
歴史班のテーマは、共存するために「歴史問題の議論は必要か」。K-POP好きだけれど歴史問題への関心が薄い日本人と、その友達になる韓国人が直面する切迫した問いだ。意見は割れたが、韓国人のほうが「衝突する話題をわざわざ持ち出す必要はない」という声が多かった。日本人は日本人同士でも話すのが難しい状況を率直に語った。
チーム長の淑明女子大2年生、韓采听(ハンチェウン)さん(24)は「歴史問題を話さない人がその理由を語る場はそうないけれど、いろいろ考えての選択だと、言葉にできたのは良かった」と笑みを浮かべた。
断絶の危機感から出発
この会が「共存のために」「友達になるには」をキーワードにするのはワケがある。発足はコロナの感染拡大が始まって半年後の20年6月、初の交流会は8月。創立メンバーは背景説明の資料で、当時の状況をこう記している。
「(コロナの影響で)世界中の国境が厳しく統制され、観光客はおろか留学生たちの往来も大きく制限された。19年の不買運動の余波が依然として残る中、日韓交流は断絶の危機に陥っていた」
不買運動は19年夏から、元徴用工訴訟を巡る日韓歴史摩擦が高まり、日本製品を対象に全国に広がった。絶好調だった韓国人の訪日旅行も影響を受け、自治体交流事業もストップした。どん底の状態でコロナ期に入り、日韓交流は氷河期に入っていた。
創立メンバーから代替わりし、今回の実行委員長を務める高麗大学4年生、林知佳さん(24)も当時、危機感を持った一人だ。「旅行者が増えて交流が広がっても、葛藤はなくならない」。政治と文化は別枠と切り離すと、表面的な話になるもどかしさを感じていた。
「仲良くするだけでなく、徴兵制など社会問題を友達と語り、悩みも聞くような人間関係を築くこと。それが、議論の結論より大切だと思う」
学部生2000人時代
「日韓青年パートナーシップ」の第10回イベントで、議論の後に気づいたことをメモに書いて貼る参加者=ソウル市のソウルユースホステルで2024年7月15日、堀山明子撮影
韓国教育省の統計によると、韓国に住む日本からの留学生は在日を含めて19年には4012人いたが、翌年には3174人に減少した。3割を占める語学留学生が半減、1000人近かった交換留学生も6割減ったのが要因だ。
一方、コロナ後の23年、全体の留学生は5850人とコロナ前を上回った。4年制大学への正規入学が19年の1588人から2340人に急増したのだ。正規入学の外国人はコロナ期も追い出されなかった。本格志向の学生は、ここを目指すように変わった。
23年に230人の正規入学を支援した企業「おうちコリア留学」の春日井萌社長(33)は「学部を卒業した日本人は、韓国で就職先を探しています」と説明する。韓国企業の就職あっせんをする別会社も経営していて「正規入学と韓国での就職、韓国における日本人コミュニティーの形成を連続して作っていきたい」と話す。
イベント的な交流ではなく、韓国長期滞在も視野に入れた日本人留学生が増えているからこそ、悩みを分かち合える友達がほしいと願う。コロナ後の学生たちの目が真剣な理由が分かった気がする。【外信部・堀山明子】
<※7月20日は休載します。21日のコラムは熊谷支局の隈元浩彦記者が執筆します>