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毎日新聞2024/7/24 東京夕刊有料記事853文字
国会図書館の外交防衛調査室の手による「戦前期日本の海外『出兵』一覧」という資料が手元にある。
今は亡き横路孝弘・元衆院議長に取材した時にいただいた。明治維新からアジア・太平洋戦争敗戦までの77年のうち、武力行使を伴う大日本帝国の海外派兵と期間を調べた労作である。
これに従えば、明治憲法施行(1890年)を起点にすると、敗戦までの55年間、大日本帝国は東アジアの16の戦争・動乱で延べ27年にわたり、国外で戦闘を続けていた計算になる。
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55年のうちの27年だから、およそ半分である。周辺国・民族にしたら大変に好戦的で危険な国に映ったはずだ。1日の半分もの時間、他人にけんかをふっかけ続ける隣人がいたら、迷惑どころの騒ぎじゃないですよね。
ところで、先日の本紙「特集ワイド」に登場いただいた元自民党幹事長、石破茂さんの持論は「戦力不保持」などを定めた憲法9条改正だ。
安倍晋三元首相の政策や靖国神社参拝に批判的な石破氏にうなずくことも多いが、改憲論はどうだろう。
石破氏は「政府は『自衛隊は必要最小限度の実力組織で戦力にあたらない』というが、国の基本法の解釈として不誠実だ」という。要は「解釈」の余地を残すあいまいさや矛盾を残したままで良いのか、ということだ。
僕も憲法に自衛隊の存在を記し、恣意(しい)的な「解釈」を許さないほうが良い、と思った時期があった。だが、第2次安倍政権以降の十数年で、条文に何を書いてもさして守る気もなさそうな一部の自民党議員の憲法観を見聞きして、考えを変えた。
逆に、あいまいさや矛盾があるからこそ、常に「我々は何を、どこまでできるのか」という思考や議論を為政者や国民に求める今の9条の意味について、より深く考えるようになった。
何より、明治憲法下の55年間は300万人の戦死者があったが、日本国憲法施行後の77年間はとりあえず一人の戦死者もいない。これは世界史的にも偉業だと思う。
石破氏にそんなことを伝えたら「ふーん」という顔をした。読者はどうだろう。(オピニオン編集部)