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毎日新聞2024/7/28 東京朝刊611文字
旧優生保護法を巡る国家賠償訴訟で、最高裁が除斥期間を適用せずに国に賠償を命じ、記者会見で笑顔を見せる原告たち=東京都千代田区で2024年7月3日、猪飼健史撮影
旧優生保護法を巡る訴訟で判決が言い渡された最高裁大法廷=東京都千代田区で2024年7月3日午後2時57分(代表撮影)
損害を被っても、何もしないまま一定の期間が過ぎると、賠償を求められなくなる。民法の決まりで、時間がたつにつれ事実関係の証明が難しくなることなどが理由だ。「権利の上に眠る者」、つまり「行使できるのに、しない人」は保護しないという考え方も根拠になっている▲以前の民法には、不法行為があった時から20年で賠償請求権がなくなるとの定めがあった。最高裁は1989年、時の経過でいや応なしに適用される「除斥期間」との解釈を示した。異議を唱えること自体「失当だ」とも断じた▲その後、戦後補償裁判や公害裁判で被害者側の敗訴が続いた。「時の壁」が立ち塞がることに、疑問を呈する学者や法律家は少なくなかった▲旧優生保護法を巡る裁判で、最高裁は今月、35年ぶりに判例を変更した。憲法に違反する法律に基づいて不妊手術を強制された人を、時間の経過を理由に救わないのは、著しく正義に反する。除斥期間の適用は認められないというものだ▲今回は国の責任が明白だった。他の裁判でも同様に「壁」を越えられるかは分からない。4年前の民法改正で「20年」は除斥期間ではなく、事情によって進行が止まることもある「時効」だと明記されたが、改正以前に起きた事例は対象外だ▲専門家に相談できなかったり、周囲の目を気にしたりして、声を上げられなかった被害者もいる。権利の上に眠りたくて眠っていたわけではない人を救済する。それが「人権のとりで」である裁判所の役割ではないか。