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毎日新聞2024/7/29 東京朝刊862文字
検察官の取り調べを違法と認めた東京地裁判決を受け、記者会見する男性(中央)=東京都内で2024年7月18日午後1時12分、菅野蘭撮影
裁判で有罪が確定するまでは無罪と推定される。そうした刑事司法の原則をないがしろにし、容疑者の権利を損なう行為だ。
提訴の記者会見で、東京地検特捜部の検察官による取り調べの不当性を訴える代理人弁護士ら=東京都内で2024年7月24日午後0時56分、菅野蘭撮影
犯人隠避教唆容疑で逮捕された弁護士の男性に対する横浜地検検察官の取り調べを違法と認定し、国に賠償を命じる判決を東京地裁が出した。
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男性は2018年に逮捕され、最初に容疑を否認した後は一貫して黙秘した。検察官は、男性の過去の弁護活動に関し「お子ちゃま発想」「ガキだよね」などと述べた。「社会性がちょっと欠けてんだよね」とも発言していた。
判決は「侮辱的な表現や、やゆする発言を執拗(しつよう)に繰り返し、人格を不当に非難した」と指摘した。
犯人と決めつけて相手を挑発し、供述を引き出そうとする態度がうかがえる。憲法で保障された黙秘権の趣旨にも反するものだ。
検察の取り調べが問題になるケースが相次いでいる。
19年に不動産会社社長が業務上横領容疑で大阪地検特捜部に逮捕され、後に無罪となった事件が、その一つだ。社長の部下を取り調べた際、検察官が「検察なめんなよ」「大罪人」と発言し、机をたたくこともあった。
東京地検特捜部が手がけた事件でも、検察官から侮辱的な発言を繰り返し受けたなどとして、会社社長が今月24日、国に賠償を求める訴訟を起こした。
密室での取り調べが録音・録画されていたため、明るみに出た。検察が独自に捜査する事件や裁判員裁判の対象事件で、義務化されている。
捜査が適正だったかを検証する上での録音・録画の必要性が確認された。それだけでは、不当な取り調べがなくならないことも、一連の問題で浮き彫りになった。
検察には、犯罪捜査のために強い権限が与えられている。だからこそ、抑制的に行使し、容疑者の権利を尊重する姿勢が求められる。検察全体の問題として、再発防止に取り組むべきだ。
事件の動機や経緯を解明しようと、捜査機関は容疑者の供述に重きを置きがちだ。だが、自白偏重の捜査は冤罪(えんざい)を生みかねない。
取り調べに弁護士の立ち会いを認めるなど、容疑者の権利を守る仕組みを拡充する必要がある。