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毎日新聞2024/7/30 東京朝刊647文字
あんずシロップをかけた人気のかき氷=東京都中央区銀座5の銀座NAGANOで2024年5月29日午後1時28分、原奈摘撮影
パリ五輪で馬術競技の会場になっているベルサイユ宮殿。17世紀にルイ14世が築いた広大な世界遺産には氷室が残る。冬に池に張った氷をため、夏にもシャーベットのような氷菓を楽しんだという▲氷や雪を夏まで残す氷室は古代から存在した。日本書紀にも記載がある。枕草子(まくらのそうし)であてなる(高貴な)ものに「削り氷(ひ)にあまづら入れて新しき金鋺(かなまり)に入れたる」を挙げたのは清少納言(せいしょうなごん)だ▲あまづらは植物由来の甘味料。金属の器に入れた氷にかけて味わったらしい。かき氷の最古の記述とされる。王侯貴族の食べ物を庶民も楽しめるようになったのは19世紀に製氷機が発明されてからだ▲明治初め、横浜に初の氷水店が開業。大森貝塚を発見したお雇い外国人のモースはその10年余り後に三重・四日市でカンナで削り、砂糖をかけた氷を食べた。値段も安いと母国・米国への導入を薦めているから気にいったのだろう▲長く愛されてきたかき氷。近年の人気は天然氷という。かつて機械氷との競争に敗れたが、細々と生産が続けられてきた。不純物の少ない自然な味わいやふわふわの食感がインバウンド客にも好評と聞く▲40度超の猛暑に先達の知恵を思う。美食の国フランスもアイスクリームなど冷たいデザートに工夫を凝らしてきた歴史を持つ。パフェは仏語のパルフェ(完璧)が語源とか。五輪観戦で世界の観光客が集まるパリでも日本風かき氷が人気というからスシに続く国際食の候補か。
ベルサイユ宮殿で行われた聖火リレーを見るため、集まった人たち=パリ郊外で2024年7月23日午後4時37分、長澤凜太郎撮影
<セエヌ眩(まぶ)し氷菓にノオト濡(ぬ)らしつつ/小池文子>