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糖質摂取はゼロでよい! 「頭を使ったから、脳のために糖分補給!」は迷信
山田悟・北里大学北里研究所病院院長補佐、糖尿病センター長
2025年2月16日
年度末が迫り、仕事がとりわけ忙しくなる時期ではないでしょうか。また、大学入試もピークを迎えています。忙しい人にとって、体調管理、とくに栄養補給が大切です。
近年、幅広い世代の方がこんな話をしているのを耳にします。
「(仕事や勉強で)頭を使うから、糖分補給!」
とりわけブドウ糖の摂取に注目が集まり、この時期になるとラムネやブドウ糖入りゼリー飲料などの広告が目立ちます。
糖質の摂取は、脳のために必要なのでしょうか。ゆるやかな糖質制限「ロカボ」を提唱する糖尿病専門医の山田悟医師に詳しく伺うと、驚きの答えが返ってきました。【聞き手・倉岡一樹】
脳にブドウ糖を送り込むシステムは多彩
「勉強や仕事で頭を使って疲れたから、糖分補給をしなきゃ」と甘いものを食べたり飲んだりする方が少なからずいらっしゃいます。
結論から申し上げると、その必要は皆無です。ナンセンスもいいところです。
脳がブドウ糖を使う度に低血糖を起こしていたら、人類は何百万年という飢餓の時代で絶滅してしまい、生き残れているはずがないからです。
「脳のために糖質をとるべし」との言説は、体内で糖質ばかりをエネルギー源として利用したがる臓器と細胞が二つあることに依拠しているものと思われます。
まず一つ目に、赤血球です。ミトコンドリアがなく、脂質を全く燃やせないため、解糖系(ブドウ糖をエネルギーに変える)でやっていくほかありません。
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そして、もう一つが脳神経系です。ミトコンドリアがあり、本来は脂質を燃やせるのですが、「血液脳関門」という障壁があるため血液から脳の中に脂質が入らない仕組みになっています。それゆえ、脳細胞は原則的にブドウ糖をエネルギーとして利用しています。
この赤血球と脳細胞が使う1日当たりのブドウ糖の量が約130gで、体格や性別にかかわらず同程度とされています。これは「大人である限りは、糖質量130gまでならインスリンの分泌を求めることなく処理できる」ことを意味しています。
これだけを聞くと、「脳と赤血球以外の細胞もブドウ糖をエネルギーとして用いるのだから、多めの糖質摂取が必要ではないか」と考えてもおかしくはありません。実際、糖質制限に懐疑的な方は「たんぱく質や脂質をしっかり摂取していても、糖質を抑えた食事を続けると体内のブドウ糖が不足して脳に届かなくなるなど体にダメージを与えるのでは?」とよくおっしゃいます。
しかし、それは杞憂(きゆう)です。人間の体は脳にブドウ糖を送り込むシステムを多く持っているのです。
血糖値を下げるホルモンがインスリンだけであるのに対し、血糖値を上げたり維持したりするホルモンは4、5種類あります。グルカゴン▽ステロイド▽カテコラミン▽成長ホルモン▽甲状腺ホルモン――などです。
脳は通常の場合、昼夜を問わず、活動時も休息時もブドウ糖をエネルギーとして利用します。体重の2%ほどの重さしかありませんが、人間のエネルギー消費量(基礎代謝量)の約20%を占めます。血糖値が下がると脳が動かなくなりますから、上げるシステムがたくさん備わっているというわけです。それゆえ、血糖値を維持できないとか、脳に影響が出るなどということはあり得ません。
糖質の必要摂取量は……ゼロ?!
しかも、糖質を代謝する肝臓が、血糖値が下がりすぎないよう、たんぱく質の代謝物であるアミノ酸や脂質の代謝物であるグリセロール、そして筋肉の解糖系で生じた乳酸などを分解して、常に新たなブドウ糖をつくり出しています。
これを「糖新生」といいます。
先に申し上げたように、ブドウ糖を優先的に使う脳と赤血球は、1日に約130gのブドウ糖を消費しますが、肝臓は糖新生で1日に約150gのブドウ糖を生成しています。
つまり、食べ物で糖質を全く摂取しなくとも、脳と赤血球に十分なブドウ糖を供給することができます。糖尿病の人は糖新生のスピードが上がっていて、1日に250gほど産生しています。その結果、夜中に何も食べていないのに翌朝の血糖値が上がっている場合があります。
医学誌「ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション」で、1999年に「赤血球と脳細胞が使うブドウ糖量として1日に最低150gの糖質を摂取すべきだ」と勧告した「国際的栄養勧告作成グループ」がありました。
ただ、「これ(150g)は恣意(しい)的に設定されたものであって、理論的な糖質の最低必要量は0gである」とも記しています。健康な人でも、糖新生で1日当たり150g程度のブドウ糖を生成しているからこそ、口から入れるのは「理論的には0gでいい」ということなのです(注1)。
要は、「臨床研究の報告が少なく、科学的根拠はないものの、赤血球や脳細胞が使うブドウ糖量くらいは食べましょう」と言っているに過ぎません。しかも、脳が本当の糖質不足に陥った際には、“非常食”として、ケトン体が機能してくれるので心配無用です。
その後、1日当たり130g(あるいは50g)の糖質摂取を上限とする糖質制限食の臨床データも出てきて、何ら問題がなかったため、私が提唱するロカボも米国糖尿病学会の定義にならって130gを上限としました。加えて、毎食後に起きる高血糖を是正すべく、「1日130g」という定義とは独立して、「1食40g以下」との定義も加えたのです。
一方、日本人男性の平均的な糖質摂取量は1日当たり300g程度、女性では250g程度とされており、摂取し過ぎです(注2)。現代社会は明らかに糖質過多で、普通に食べているだけで血糖値が上がってしまいます。
私が非常勤講師を務める北里大学薬学部の学生さんたちは、皆さんとても優秀ですが、菓子パンを食べて血糖値が糖尿病の診断基準である200mg/dLを超える人がいます。そのような学生さんには指導をしますが、若年層でも血糖値200mg/dLを超えさせる菓子パンの恐ろしさを実感しています。高血糖や糖尿病を「中高年の病」と思っている方もいらっしゃるようですが、若い世代も決して無縁ではないのです。
低血糖に対する反応のホルモンが枯渇したり、インスリン注射を打っていたりなど極めて特殊な環境下では、ブドウ糖の不足による集中力低下などが起こり得ますし、食後高血糖に対する急性の反応性低血糖が生じた際に、意識を失う例も無いわけではありません。しかし、栄養をとれない時に低血糖で倒れてしまうほど人類がヤワだったら、既に淘汰(とうた)されているはずです。
「頭を使ったから、脳の活性化のために糖分補給だ!」は、糖質にとりつかれた現代人が甘いものを食べるためにつくり出した“免罪符”なのかもしれません。
「口からブドウ糖を摂取しなければ脳が働かなくなる」とのストーリーは迷信です。
根強く残る「脂質悪玉論」
現代人のエネルギー摂取が糖質頼みになってしまっているのは、なぜでしょうか。
「脂質を控えた方がいい」との20世紀後半の概念がいまだに色濃く残っているからです。しかも、たんぱく質はエネルギー源としてより筋肉の組成や新陳代謝に使いたいので、3大栄養素の残りの糖質に偏ってしまっているのでしょう。
つまり、「脂質悪玉論」と「糖質善玉論」、そして「たんぱく質のとり過ぎは腎臓に悪い」との三つの誤った考え方がかみ合って、「脂質をとり過ぎると動脈硬化症になる。しかも、たんぱく質は食べ過ぎると腎臓が傷む。糖質は食べ過ぎがなく、どれだけ食べても大丈夫」との「完璧なストーリー」が描かれ、どっぷりとつかってしまっているのだと考えます。
そういうストーリーを描いていらっしゃる研究者の方たちには「脂を控えるべきなのだから、エネルギーは糖質で摂取しなければならない」との「確固たる誤解」があるように思えます。
脂質悪玉論がここまではびこってしまっている原因も「誤解」にあります。
20世紀後半、日本人が感染症に打ち勝って平均寿命が延び、世界のトップ10に入った頃です。「なぜ日本人の寿命が延びているのか?」との問いに、世界は「脂質の少ない日本食が健康にいいのだろう」とみて、日本人もその気になってしまったのです。これが致命的でした。ところが、その後、そのようなことは全くないと分かりました。
例えば、平均寿命はスイス(男82.3歳、女85.9歳、2023年)や香港(男82.49歳、女87.91歳、2023年)も長く、世界でも上位につけ、日本(男81.09歳、女87.14歳、2023年)と同等ですが、どちらも脂質を十分に摂取します。「脂質が少ない食事をとっているから長寿」との仮説は破綻しています。
そもそも、重要な視点が抜け落ちてしまっています。
日本人を含む東アジア系の人種はインスリン分泌能力がもともと弱く、量が出たとしても分泌が遅いため、肥満になる前に血糖が上昇してしまう人が多いです。中国人の成人の2人に1人は食後高血糖を持っています(注3)。
摂取量の上限を設定しなければならないのは、脂質でもたんぱく質でもなく、糖質なのです。
これまで説明してきたように、脂質は血糖値を上げず、効率的に使える優れたエネルギー源です。その「エネルギー源としての脂質」の重要性が見直され、「摂取量の上限が設定不要なのは、たんぱく質と脂質」との考え方にシフトしてほしいと心から願っています。
受験当日の朝食……その“鉄則”とは
さて、受験シーズンのまっただ中です。糖質のとり方に注意していただきたいのは、受験生も同じです。とり方一つでパフォーマンスが変わる可能性があり、結果を左右しかねません。
まず、受験当日の朝食にどのくらい糖質をとることが望ましいのかについてお話しします。
かつて、20歳くらいの若者を対象に、赤い色で「緑」と書いた文字を見せて、「赤」と答えさせる知能テストが実施されました。「ストループテスト」と呼ばれます。
「正しく答えられるか」「速く答えられるか」と二つの側面で点数をつけるのですが、朝食を抜いている場合と朝にブドウ糖を摂取した場合とで比較すると、ブドウ糖を摂取している方が、点数は高く出ました(注4)。「朝にブドウ糖を摂取しておくべきだ」との主張は、この研究結果が根拠になっている可能性があります。
一方、ほぼ同時期に10代前半の若年層を対象として、似たようなテストが実施されました。今度は、朝食をとって血糖値が上がっている場合と、さほど上がっていない場合とで点数を比較しています。
もしブドウ糖の摂取がよいのであれば、血糖値が上がっている方が点数は高く出るはずです。ところが、血糖値がさほど上がっていない方が、成績がよかったのです(注5)。
二つの研究結果から結論として得られることは「朝食はしっかりと食べるべきだが、血糖値を上げるべきではない」ということです。従って、朝にブドウ糖を摂取しなければならない、ということではありません。
ただ、朝に栄養素を摂取すること自体に効果があるのか、朝食をとって体内時計を整えられることで効果を得られるのかはまだ分かっていません。
ロカボでは、血糖値が上がりやすい朝には糖質を控えめにし、脂質とたんぱく質をたっぷりととる朝食を推奨しています。1食当たり糖質摂取量は40g以内と規定していますが、朝食は20~30gほどが望ましいでしょう。脂質とたんぱく質でエネルギーを十分に補給できますし、食後高血糖も避けられますから、午前の試験中に眠気やだるさを感じることなく、従来のパフォーマンスを発揮できるはずです。
朝、手軽で甘く、おいしいバナナを食べる方もいらっしゃるでしょう。バナナは未熟の青い状態ですとほぼデンプンですが、黄色く熟すとブドウ糖と果糖、ショ糖へと変化します(注6)。
気をつけなければならないのは、果糖です。果糖は摂取しても、肝臓で代謝されるため、脳には届きません。バナナには確かにブドウ糖が含まれますし、ショ糖を分解すればブドウ糖も出てきます。しかし、半分は果糖ですから、ブドウ糖にこだわる方にとって効率が悪いです。
果糖を熱心に研究なさっている米コロラド大学のジョンソン先生は「1食当たりの果糖摂取量が8gまでであれば、小腸で処理でき、肝臓の負担にならない。それを超えると肝臓で代謝することとなるため、大量に果糖を摂取してはならない」と主張します。
肝臓に負担がかかると脂肪肝になって肝機能障害を引き起こしたり、高尿酸血症になったり、食欲が高ぶって肥満になったり、インスリンの働きを弱めて結局は高血糖になったりする可能性が高まるからです。
その考えに基づくと、標準的な大きさのバナナ1本当たりの果糖は10gほどですからアウトです。小ぶりのバナナなら大丈夫でしょう。
砂糖の「中毒性」
「シュガーハイ」という言葉をご存じでしょうか。
小学校の教師たちが、午前中に落ち着かず、そわそわして、浮足立っているようなそぶりを見せた子どもの様子に「いつもと違う」と疑問を持ちます。その子の朝食について尋ねると砂糖を摂取している場合が多かったとアンケートで答えた、との論文があります(注7)。
肉やポテトでは様子が変わらなかったものの、菓子やチョコレートを食べていた子どもが落ち着かなかったといいます。ただ、メカニズムがまだ分かっていないため、非科学的であるかもしれません。
砂糖をとると、よく言えば元気になる、悪く言えば落ち着かず集中力に欠ける状況が生まれる可能性があるのです。集中力が求められる学力試験前には、砂糖、すなわち糖質の摂取量を少しにとどめておく方が無難なのかもしれません。
ジョンソン先生は「果糖は冬眠の準備物質」とも言いました。冬眠前の一時期だけが、果糖を摂取できる季節で、この時期にどんどんと食べ、食べたものを燃やそうとせず、できるだけ皮下脂肪として蓄えることで、冬眠の間に餓死しない体を作っておく必要があるためです。
それゆえ果糖を食べると満腹感が遠のき、食べるだけ太り、高血糖も起こる一方、エネルギー消費が落ちていきます。“甘いものは別腹”という言葉がありますが、この言葉は科学的に正しいのです。
そして、次々と食べるためには、恐れ知らずにさまざまな所へ入り込んで食べ物を探さねばなりません。食料を求め、人間と相対するリスクを背負ってまで人里に出ていく熊を思い浮かべていただくと分かりやすいかもしれません。そこまでさせてしまうのが、果糖であるということなのです。
幼稚園児や小学生のお子さんが「落ち着きがないですね」と指摘された場合、果糖の摂取量を減らしていただくといいと思います。
果糖は、飢餓の時代を生き延びるためには非常に重要な栄養素でしたが、現代の飽食の時代には最も向かない栄養素となってしまったのです。
論文で確認してはいないのですが、果糖は麻薬の「ヘロイン」と同様の作用を脳に与えているのではないか、との考え方があります(注8)。砂糖には、麻薬のような依存症を来す側面があるのかもしれません。
こんな研究結果もあります。砂糖水と普通の水を並べておくと、普通のマウスはほぼ甘い水に寄ってきます。ところが、味蕾(みらい)から脳に伝わる神経を遮断して甘みを感じられなくしたマウスもなお、砂糖水に寄ってきたのです。味覚を破壊すると、普通の水と甘い水のどちらでもよさそうなものですが……(注9)。
一方、人工甘味料「スクラロース」を溶かした水と普通の水を並べると、普通のマウスは甘みがあっておいしいスクラロース水に集まるのですが、味覚を遮断したマウスは「5対5」で分かれたそうです(注10)。
やはり、砂糖、とりわけ果糖には中毒性のようなものがあると思います。それゆえ、果糖から一度離れ、似たような快楽を得られるものの、代謝上の負担がない人工甘味料を積極的に使った方が賢明です。
ラムネもブドウ糖入りゼリー飲料も不要!
次に試験当日の昼食ですが、「おにぎりだけ」など炭水化物がメインとなる食事は問題があるかもしれません。やはり糖質摂取過多となり、血糖値の乱高下を招いて眠気を催したり、集中力を著しく欠いたりする可能性が出てくるからです。
無論、エネルギーを体に入れた方がよいです。とはいえ、ブドウ糖を脳が要求しても肝臓がきちんと出してくれますから、ことさらに摂取する必要はありません。
若年層の方が糖の代謝能力は高いため、血糖値が上がっていなければ米を含めて何を食べても問題はありません。ただ、もしお子さんが昼食に炭水化物を多めに食べた後の昼下がり、けだるさや眠気を訴えた経験があるのなら、弁当箱の中の仕切りを米側に寄せる、つまり米の量を減らして、おかずをたっぷりと入れてあげてください。
親御さんは準備が大変になってしまいますが、血糖値の乱高下が起きにくくなりますし、おなかも満足できて、パフォーマンスを最大限に発揮できる可能性が高くなります。
また、「ブドウ糖を脳に送り込んで頭を働かせよう」と試験前にラムネやブドウ糖入りゼリー飲料を食べる受験生が少なくないと親御さんから伺ったことがあります。
これもまた、摂取する必要はありません。シュガーハイで一時的な興奮を得られるかもしれませんが、長続きはしません。食後高血糖が生じて眠気を引き起こす可能性が高くなりますし、ことによっては血糖値の乱高下が起きて急激に落ち、低血糖が起きる可能性さえはらみます。低血糖が起きてしまえば脳がきちんと働かなくなりますから、ここまで重ねた努力が水の泡になってしまいかねません。
「試験前に気合を入れよう」とエナジードリンクを選ぶ受験生もいるようですが、これはぜひ避けていただきたいです。糖質量が多く(100㎖当たり13gほど)、飲み物ですから、血糖値の上昇はそしゃくを伴うお菓子よりも速いです。
飲んだ直後に興奮を得られるのは、カフェインによるものと考えられています。これも一時的に元気になるかもしれませんが、それも一瞬です。比較的早い段階で食後高血糖が起き、だるさや眠気に襲われるはずです。「エナジードリンクを飲んでいるのにエネルギーが切れる」という最悪の事態が生じます。「糖質疲労」が起きていると思ってください。
カフェインにこだわりたいのなら、コーヒーや紅茶、お茶で十分です。糖質ゼロのコーラもOKです。炭酸でシュワッとして気分転換を図ることもできるでしょう。
おすすめは、ブラックコーヒーに高脂質の生クリームを浮かべたものです。生クリームには100㏄で3gほどの乳糖も含まれていますからちょっとしたブドウ糖も入りますし、おいしく、血糖値の乱高下も起きません。ほっとする感覚も得られます。落ち着いた気持ちで試験には入れるかもしれません。
受験生におすすめの夜食とおやつは?
受験勉強をするお子さんに、夜食として鍋焼きうどんやおにぎり、甘いものを提供する親御さんもいらっしゃるでしょう。とても素晴らしい愛情表現だといえますが、これも糖質摂取過多で受験生に糖質疲労を起こさせ、眠くさせてしまうかもしれません。勉強の妨げになっていないことを祈ります。
朝食と同様、脂質とたんぱく質中心の夜食にシフトすることをご提案したいです。
おすすめなのは、ナッツやチーズです。低糖質ゆえ血糖値にほぼ影響が出ないだけではなく、そしゃくしますし、脂質を摂取できるのでおなかを満たすこともできます。舌も体も喜ばせられる優れものです。
私も講演に出かけて夜遅くに帰宅した際、夜食としてナッツとチーズを食べるのですが(一緒にワインもたしなみますが……)、翌朝の血糖値にも差し支えないため、体に悪影響を及ぼしません。しかも片付けが楽で、一石二鳥です。
受験生の栄養補給は3食をしっかり食べることが基本です。繰り返しとなりますが、ポイントは血糖値が上がりやすい朝の食事です。糖質を控えめにしてたんぱく質と脂質をたっぷりととっていただくと、昼食以降も血糖値が上がりにくくなります。
試験の間、疲れた際の息抜きで、「どうしても甘いものを食べたい!」と思ったら、人工甘味料入りのスイーツをおすすめします。血糖値を全く上げない人工甘味料を使えば、甘いものを楽しめます。
私は甘いものが大好きですから、朝に低糖質スイーツを食べています。私が理事長を務める「食・楽・健康協会」が認めた「ロカボマーク」がついたスイーツですと、糖質が10g弱です。およそ半分(約5g)が果糖ですが、ジョンソン先生がおっしゃった「1食当たり8g」の目安も悠々クリアできます。高たんぱく、高脂質のヨーグルトに人工甘味料を加えても、低糖質でおいしく、体にもいい嗜好(しこう)品になります。
山田悟医師=宮間俊樹撮影
人工甘味料に「健康に悪い」との危惧を持つ方もいらっしゃるでしょう。しかし、過剰に恐れる必要が皆無であることは、以前お伝えしました。血糖値が上昇してしまう人にとっては砂糖を使うより、よほど健康的です。
また、ハイカカオチョコレートやフラクトオリゴ糖入りチョコレートのように砂糖の量を減らしたチョコレートもいいと思います。チョコレートそのものには糖質がないのですが、砂糖を入れている商品がほとんどで、高糖質の食品となっています。
カカオの割合が多くなるほど使われる砂糖が減り、糖質は少なくなります。目安はカカオ70%以上です。ナッツ類が入っていれば、さらに糖質量は減ります。
受験勉強や入学試験はつらく、苦しいものです。追い込んだ日々を送っていると、心のゆとりもなくなるでしょう。だからこそ、時には甘いものを食べて一息つき、心を整えることが大切です。
「やめる」「我慢する」だとつらくなり、心が疲弊します。カロリー制限に走ると、げっそりとしてしまいますし、拒食症へと進みかねません。体によいことはないです。
たんぱく質と脂質をしっかりと食べて、特に果糖を注意する生活がよいと考えます。若い女性の中には、カロリー制限をしながらフルーツのスムージーだけをとるような人もいて、とても怖いです。果糖ばかりをとっているわけですから、痩せた脂肪肝の人が増えるという話もうなずけます。
体も心もゆとりを持って、すこやかに、難関をくぐり抜けてください。
皆さんに明るい春が訪れますように。健闘を祈ります。
【参考文献】
注1 Eur J Clin Nutr 1999; 53Suppl 1: S177-S178
注2 J Epidemiol 2013; 23: 178-186
注3 JAMA 2017; 317: 2515-2523
注4 Psychopharmacology 2012; 220: 577-589
注5 Br J Nutr 2012; 107: 1823-1832
注6 PLoS One 2021; 16: e0253366
注7 Psychological Rep 1993; 72: 47-55
注8 Obes Res 2002; 10: 478-488
注9 Am J Physiol Endocrinol Metab 2020; 319: E276-E290
注10 Neuron 2008; 57: 930-941
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1970年生まれ。94年慶応義塾大医学部卒業。同大内科学教室腎臓内分泌代謝研究室などを経て2002年に北里研究所病院へ転じ、07年から糖尿病センター長、24年から同院院長補佐を務める。我慢ばかりを強いるカロリー制限中心の食事療法で、向き合う糖尿病患者の生活の質が低下している現実と直面した。そんな中、食事をおいしく、おなかいっぱい楽しみながら血糖値を穏やかに保ち、肥満者の減量効果にも優れる、緩やかな糖質制限食と出合う。治療に積極的に取り入れるとともに、「ロカボ」と名付けて普及に努め、2013年に「食・楽・健康協会」を設立した。日本糖尿病学会糖尿病専門医。日本糖尿病学会指導医など。主な著書に「カロリー制限の大罪」「糖質制限の真実」「奇跡の美食レストラン」など。慶応義塾大医学部非常勤講師、北里大学薬学部非常勤講師、星薬科大学非常勤講師。