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毎日新聞2024/6/11 07:30(最終更新 6/11 07:30)943文字
腸内細菌バンクを活用した治療法開発に取り組む順天堂大の石川大准教授=2024年5月7日、下桐実雅子撮影
難病の潰瘍性大腸炎の治療に取り組む順天堂大の医師らが設立したバイオベンチャー企業が今年4月、「腸内細菌バンク」の運用を始めた。患者の治療法の開発に役立てるため、健康な人から腸内細菌の提供を受けて保管する、国内では初の取り組みだという。
人の腸には約1000種類、40兆個もの細菌がすみついており、病気の人と健康な人では細菌の構成が異なるとされる。健康な人の便に含まれる腸内細菌を移植して病気の改善を目指す「腸内細菌叢(そう)移植」は国内外で研究されている。米国や豪州には細菌を保管するバンクがあり、細菌の構成バランスが崩れることによる感染症の治療に使われているという。
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順天堂大の石川大准教授(消化器内科)らが移植による治療を目指すのは、国内に20万人以上の患者がいるとみられる潰瘍性大腸炎だ。移植の治療効果や安全性を調べる臨床試験を実施中で、4施設が参加している。
潰瘍性大腸炎の発症のピークは20代と若く、大腸の粘膜に潰瘍ができて腹痛や下痢などの症状があり、外出しにくいなど生活への影響も大きい。治療には炎症を抑える薬や免疫抑制剤などが使われるが、根治させる治療法はまだない。
しかし石川さんのこれまでの研究では、腸内細菌の移植を受けた患者の約4割が、症状がなくなる「寛解状態」になったという。そこでバンクを立ち上げ、患者に適した腸内細菌の安定的な確保を目指すことにした。運用は石川さんが取締役を務める企業「メタジェンセラピューティクス」(山形県鶴岡市)が担う。
◇健康な人から「献便」を募る
献血と同じように、18~65歳の健康な人から「献便」を募る。ウェブサイト(https://www.j-kinso-bank.com/)上で問診に応じてもらい、基準を満たした人を登録する。
順天堂大病院で血液や便の検査などを受け、安全性が確かめられれば、ドナー(提供者)となる。ドナーには協力費として数千円が支払われる。当面1000人規模の登録を目指しているが、検査を通ってドナーになる人は1割程度という。
石川さんは「この治療法はドナーがいないと成り立たない。『健康のおすそわけ』と考えて協力してほしい。日本各地で献便ができるように、検査施設を広げていきたい」と話している。【下桐実雅子】