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毎日新聞2024/8/3 東京朝刊有料記事3205文字
直下に活断層があると判断された敦賀原発2号機=福井県敦賀市で2024年7月26日、本社ヘリから加古信志撮影
日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)が、約9年に及んだ原子力規制委員会の審査で初の「不合格」となる。原電は窮地に追い込まれたが、それでも2号機を廃炉にするつもりはない。背景に何があるのか。
「追加調査と論理の再構築をする必要性を強く認識した」。2日の規制委の臨時会に出席した原電の村松衛社長はこう述べ、審査継続を求めた。しかしその期間は「1年以上かかり、2カ月後にめどを示す」と、あいまいな説明に終始した。
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これに対し「受け入れられなかったからもっとやるというのはきりのない話。どれほど勝算があると考えているか」(杉山智之委員)など実効性を疑う発言が規制委から相次いだ。山中伸介委員長は「具体性や期間が非常に不明確。結論が変更になる可能性は極めて乏しい」とまとめ、不許可の方針が全会一致で決まった。
「異例中の異例」(山中委員長)とするこの審査を招いた理由が、科学に背くような原電の姿勢だ。規制委の有識者調査団は2013年、「2号機直下に活断層がある」とする報告書をまとめた。審査の焦点も、2号機近くのK断層に、活動性と原子炉直下への連続性があるかに絞られた。
ところが原電は、地層が軟弱で動いた可能性を示す「未固結(みこけつ)」を、正反対の「固結」に書き換えたり、断層の動きをうかがわせる文章を削除したりした。いずれも規制委に無断で行い、約80カ所に上った。
原電は「意図的ではない」と釈明したが、自らに不利な“証拠”を隠したとも捉えられかねない事態だった。規制委は審査を中断して原電本店に立ち入り調査するなどした。
しかし審査再開後も、原電の不可解な説明は後を絶たなかった。「K断層に連続性はない」と主張する根拠のデータが観察結果と矛盾。「科学的妥当性を判断することは困難」と規制委に一蹴された。
実は、こうした姿勢は40年以上続いている。
敦賀原発の敷地内を走る浦底断層は、1980年から学術誌などで存在が指摘されてきたが原電は否定し続けた。再調査を国に求められた原電は、ボーリング調査の結果を独自に解釈して「活断層ではない」と主張。当時の有識者会議の委員に「地質学の基本をねじ曲げた」「専門家がやったとすれば犯罪に当たる」と厳しく批判された。原電がようやく活断層だと認めたのは08年だ。
一方、規制委は「疑わしきはクロ」に徹した。
新規制基準は、「否定できない」ものは「ある」ものと安全側に判断して対策を求める決まりだ。断層についても、約12万~13万年前以降に動いたことが否定できなければ活断層とみなす。「地震や津波などの自然災害は予測が難しい」という東京電力福島第1原発事故の教訓を踏まえたためだ。ある幹部は「原電の説明では判断がつかない。『ない』という判断は受け入れない」と断じた。
調査団メンバーの鈴木康弘・名古屋大教授(変動地形学)は「新規制基準に沿った当然の判断だ。調査団で現場を見て、これを覆すほどのデータは出ようがなく、議論を続けても可能性を否定できないと思った。能登半島地震でも活断層の怖さを多くの人が認識した。今回の結論は重要な意味がある」と話す。
電力大手が経営支え
規制委が2号機に不許可の判断を下したことで、設置主体である原電の先行きにも黄信号がともった。あくまで再稼働を目指す方針に変わりはないものの、その可能性は極めて厳しい状況だ。
原電は1957年に設立された国内で唯一の原発専業会社で、大手電力9社が出資している。原発事故までは原発で発電した電力を電力各社に販売することで収益をあげてきた。
しかし、保有していた原発4基のうち2基の廃炉が既に決定。残る2基も事故後停止したままで、再稼働のメドは立っていない。
それでも原電の経営が成り立っているのは、電力販売契約を結んでいる東京、関西、中部、北陸、東北の電力大手5社が原発の維持や人件費のため「基本料金」を支払い続けているからだ。原電の2024年3月期の売上高は967億円で、そのほとんどを基本料金が占める。最終(当期)利益も24億9000万円となり、7年連続で黒字だ。
「長期停止中にもかかわらず負担をかけていることは非常に重く受け止めている」。原電の村松衛社長はこう言うものの、電力大手の負担だけが一方的に膨らみ続けるいびつな構図が続いている。状況が好転する兆しも見えない。残る東海第2原発(茨城県)も安全対策工事として実施していた防潮堤の基礎部分に不備が見つかり工事が遅れ、今年9月としていた完成目標の時期はずれ込む見通しだ。周辺自治体の避難計画の策定も完了しておらず、再稼働の展望は開けていない。
電力各社は、再稼働方針を維持する原電を支援する姿勢だが、株主などからは基本料金の支払いに対して「無駄な金だ」といった指摘も出ている。「原電は何をやってるんだという思いは正直ある」。大手電力関係者からはこんな本音も漏れる。仮に敦賀2号機の廃炉を決断したとしても、廃炉費用は原電の試算で716億円かかる。売電収入がない中、その費用は電力各社が事実上、負担することになりそうだ。
実際、原電が廃炉作業を進めている東海原発(茨城県)の費用は基本料金から支払われている。敦賀2号機が廃炉となった場合も受電契約を結んでいる関西、中部、北陸の3電力は基本料金を支払い続けることになり、廃炉費用を負担することになる可能性が高い。
「原電が再稼働の旗を下げない限り、応援を続ける」。大手電力関係者はこう強調するが、電力各社の支払う基本料金の負担は最終的に電気料金に転嫁される恐れがある。消費者からの批判を招く事態にもなりかねない。
政策変更「延命」に道
「大変残念だ。経営の両輪である2号機は極めて重要。再稼働を目指して対応するのが基本方針だ」。2日の規制委の臨時会の後、原電の村松社長は報道陣の取材にこう述べ、廃炉にしないことを強調した。
原電が再稼働を諦めないのは、たとえ不許可になっても、新たな調査をして再審査を申請できるためだ。一方、規制委が事業者に直接廃炉を命じる仕組みはない。
2015年には、大量の機器の点検漏れを起こした高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)に対し、事業者を変更するよう規制委が政府に勧告。政府がこれを機にもんじゅを廃炉にした経緯がある。しかし、あくまで重大な不祥事や事故を起こすリスクなどがあった場合に限られ、2号機は現時点では該当しないとみられる。
さらに原電を後押しするのが、国の政策変更だ。
東京電力福島第1原発事故の後、原発の寿命は「原則40年」とされた。運転開始から40年がたつまでに、審査の通過と運転延長の認可を得なければ、その後の再稼働は一切認められず、廃炉を選択せざるを得なくなる仕組みだった。
しかし、政府が原発の60年超運転を認めた「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」で、この仕組みが撤廃された。2号機は27年に40年を迎えるが、その後に審査を通過しても、再稼働できる。
GX法では「審査にかかった期間は除外して運転期間に上乗せできる」としており、審査をいくら引き延ばしても、その分寿命を延ばせるため、事実上影響はない。経済産業省幹部は「稼働できない状況が続くので厳しいのは変わらないが、原電は再稼働を諦めたわけではない。不許可になってもこれまでとフェーズは変わらない」と断言。2号機は廃炉も再稼働もしない、足踏み状態が続く可能性がある。
ただ2号機の直下の断層は、審査で8年以上も議論しており、原電が追加調査をしても結果を覆すのは難しいとの見方もある。規制委側も安易な再審査には慎重な立場だ。ある幹部は「中身が審査に値するものかどうか審議することになる。全く同じものを出してきたら、また不許可にするだけ」と語った。【木許はるみ、高田奈実、高橋由衣】