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毎日新聞2024/8/4 東京朝刊866文字
衆院安全保障委員会で防衛省の不祥事について説明する木原稔防衛相=国会内で7月30日、平田明浩撮影
文民である政治家が実力組織の自衛隊をコントロールする「文民統制」がないがしろにされた。深刻な事態である。
潜水手当を不正受給していた海上自衛隊の元隊員4人が昨年11月、詐欺などの容疑で内部捜査部門の警務隊に逮捕された。しかし、自衛隊を統括する木原稔防衛相には報告されなかった。
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不正受給について、木原氏が7月5日に省内で説明を受けた際には、資料に注釈で触れられていただけだった。逮捕を知らされたのは、18日の立憲民主党の会合で明らかになった後だった。
防衛省によると、懲戒処分は報告することになっているが、逮捕については全てを知らせることにはなっていなかった。「隠蔽(いんぺい)する意図はなかった」と弁明するが、逮捕に至るような重大な事案をトップに伝えない姿勢は、国民の感覚からかけ離れている。
本来は逮捕された時点で報告すべきものだった。木原氏が国会の閉会中審査で「文民統制の観点から非常に問題があった」と答弁したのは当然だ。
文民統制は民主主義国家が採用する大原則だ。日本では戦前戦中に軍部が暴走した反省を踏まえ、内閣と、国民の代表である国会が自衛隊を監督する役割を担っている。今回の事態は国民への背信行為に等しい。
2017年の南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題でも、当時の稲田朋美防衛相に「廃棄済み」と報告されていた文書の存在が後に明らかになった。文民統制の不徹底が批判されたが、その教訓は生かされていない。
国会を軽視する姿勢も問題だ。自衛隊では潜水手当の不正受給だけでなく、安全保障に関わる特定秘密の不適切な取り扱いなどで、200人以上が処分された。だが、一連の不祥事が発表されたのは、通常国会閉会後の7月だった。
木原氏は辞任を否定したが、組織を統率できていない責任は重い。最高指揮官の岸田文雄首相のリーダーシップも問われる。
安全保障環境の変化に応じて、自衛隊の活動範囲が広がる中、組織の緩みが放置されたままでは、任務にも支障が出かねない。政府は文民統制を徹底し、国民の信頼回復に努めなければならない。