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毎日新聞2024/8/4 東京朝刊有料記事943文字
日本在宅医療連合学会大会では「異業種」からの講演も行われ盛況だった。写真は獣医師、下司睦子さんの講演風景=滝野隆浩撮影
<滝野隆浩の掃苔記(そうたいき)>
幕張メッセ(千葉市)で7月に開催された「第6回日本在宅医療連合学会大会」を聞きに行った。家で暮らす患者を支える医療の、いまの課題を知りたかった。そこで新しい出会いもあった。
在宅医療は、医療者だけでなく多職種が連携して「生活を支えていく」のが基本。ただ近年、その支え手が不足しており、ロボットやインターネット上の先端技術を導入していくしかない。大会冒頭の基調講演、特別講演ではそうした危機感が繰り返し語られていた。
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人生の最終盤を「なんとか家で暮らしたい」と多くの人が望んでいる。だけど現状は、そう簡単ではない。
会場では多くの講演、ワークショップが行われていた。その中の「喪失」について考えるシンポジウムでは、なんと登壇者の一人が獣医師だった。多職種がかかわる在宅医療の大会だからこそ、こうした「異業種」の出番があるのだろう。このミニ講演、とても興味深かった。
国は最近、本人や家族と医師らが人生最終盤のあり方を事前に話し合っておくACP(アドバンス・ケア・プランニング=「人生会議」)を推奨している。今回、獣医師の下司(げし)睦子さんは「獣医療にもACPを」と訴えたのだった。
ペットはいまや「家族同然」の存在。ところが人間同様高齢化が進み、ペットもがんや腎不全の罹患(りかん)率が高まっている。このため老いたあとの医療方針について決めておかないと、医療費もかさみ大変なことになる。「そこまでしなくてもいいよ。カネもかかるし……」「あなた、なんてこと言うの!」。診察室でそんな夫婦ゲンカが始まるらしい。飼い主が単身者だと、自分ひとりで厳しい決断を迫られる。そうした心労で「ペットロス」になり、1年以上立ち直れないこともあるというから深刻だ。
そもそもペット自身の、本当の気持ちはわからない。だからこそ、ともに人生を歩んできた飼い主の意思が大事になってくる。ペットも人も、いつか必ず死ぬ。「いきなり死生観を問われることにもなります。事前に獣医療スタッフと話し合い、思いを共有しておいたほうがいい」。下司さんはそう話す。「ペットのACPを考えたのをきっかけに、飼い主さんが自分や家族のACPの必要性に気づいたケースもあったんです!」(専門編集委員)