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毎日新聞2024/7/23 05:30(最終更新 7/23 05:30)有料記事1667文字
佐賀県玄海町の文献調査受け入れ表明後に開催された全国原子力発電所所在市町村協議会の総会=東京都千代田区で2024年5月22日午後3時58分、木許はるみ撮影
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場の選定で、佐賀県玄海町が原発立地自治体として初めて文献調査受け入れを決め、6月に調査が始まった。毎日新聞が原発立地自治体にアンケートをしたところ、進まない議論に不満の声も上がった。打開策はあるのか。
「文献調査を受け入れているのは原発立地自治体か原発周辺自治体。全国的な議論に広がるよう国は一生懸命取り組んでほしい」
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5月に東京都内であった、原発が立地する自治体でつくる全国原子力発電所所在市町村協議会の総会。約2週間前に「処分場を巡る議論を広げるため一石を投じる」と調査受け入れを表明した玄海町の脇山伸太郎町長は、こう呼びかけた。
玄海町に先駆けて2020年に調査を受け入れた北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村は北海道電力泊原発(北海道泊村)の30キロ圏内にある。なかでも、神恵内村は泊原発の隣接自治体として、電源立地地域対策交付金も受け取る。原発との関係が深い自治体ばかりから調査への関心が寄せられている現状に懸念を示した格好だ。
政府も現状を是認しているわけではない。斎藤健経済産業相は6月21日付の佐賀県への文書のなかで「電力消費地である都市部を含めた全国で、最終処分に関する理解や議論が深まっていくよう対話型説明会や自治体の個別訪問などで必要な情報提供を着実に進めていく」と強調。だが、道のりは険しい。
核のごみ最終処分場選定の流れ
岸田文雄首相が原発回帰を鮮明にするなか、政府は23年4月、政府の関与を強める方向で最終処分法に基づく基本方針を改定。対応の一つが国、原子力発電環境整備機構(NUMO)、電力会社による合同チームで、自治体の首長に直接説明する全国行脚だ。国が17年に示した「科学的特性マップ」で処分場の場所として「好ましい」とされた地域を中心に、23年7月の開始から24年5月末時点で106自治体を訪れた。
政府関係者によると、首長からは「理解を深めるために改めて勉強会や見学会を実施したい」との前向きな意見がある一方、「説明を受けるだけで騒ぎになる」との否定的な意見も多いという。「自治体に迷惑がかかる」(資源エネルギー庁幹部)として、訪問自治体名は非公表のままだ。
一方、NUMOは科学的特性マップが公表されて以降、全国各地で住民を対象に行われる「対話型全国説明会」を6月末までに194回開催。しかし、NUMOが23年10月に全国1万人を対象に実施した「広報活動に係る意識調査」では、核のごみを地下300メートル超に閉じ込める「地層処分」について「具体的に知っていた」と答えたのは5%で、「聞いたことがあった」を合わせても全体の4割強にとどまった。
毎日新聞のアンケートでも、地層処分について6自治体が自治体内で理解が「進んでいない」と回答し、「進んでいる」としたのは1自治体のみだった。
青森県六ケ所村に建設中の使用済み核燃料の再処理施設などには、英仏から返還されるなどしたガラス固化体約2500本が一時保管されている。青森県との約束では、最長50年で県外に搬出することになっており、最初の期限は45年だ。
だが、選定に向けた3段階の調査にかかる時間を単純に足し合わせても20年近くを要するとされ、現在文献調査中の3自治体は、いずれも所在道県の知事が処分場受け入れに反対の姿勢を示すなど、次段階の調査に移れるか見通せない。NUMOは「(青森県との約束は)たがえることはできないもので、全国各地の理解を得ながら一生懸命努力する」とするが、履行はかなり厳しい状況だ。
長崎大の鈴木達治郎教授(原子力政策)は「現行の手挙げ方式は科学的に優れた土地よりも手を挙げてもらえるところを優先しているように見え、決して良い選定プロセスとは言えない。科学的特性マップに基づいて国が10カ所なり、20カ所なり候補地を選び、自治体側に申し入れる方法を検討すべきだ」としている。【森永亨、五十嵐浩隆】